背景
リエージュ都市圏は、ベルギーのワロン地域に位置する都市圏人口62万人の地域です。リエージュでは、1960年代のモータリゼーションの進展により路面電車が廃止されました。その後は、バスを中心とした公共交通網の整備が進められ、路面電車の廃線跡は、バス専用道として市内各地に再整備されました。しかし、1990年代に入ると、中心部ではピーク時に1時間あたり50台以上のバスが運行されるようになり、バス輸送だけでは需要に対応しきれないという問題が生じました。実際、1990年代にはバス利用者が減少に転じています。
こうした状況の中、リエージュでは環境意識の高まりも背景に、公共交通の重要性が再認識され、トラム復活の構想が芽生えました。その構想は、リエージュ都市圏で初となるモビリティ計画「Plan Urbain de Mobilité de l’agglomération de Liège(通称:PUM)」の中で具体化されました。トラム建設の資金調達には課題もありましたが、官民パートナーシップによりこれを乗り越え、2019年に着工。2025年4月28日に開通し、60年ぶりにトラムがリエージュの街に戻ってきました。さらに現在は、BRT(バス高速輸送システム)4路線の整備も進められており、2027年の開業が予定されています。



実施内容
PUMは、リエージュにおけるトラム復活のきっかけとなった計画であり、リエージュ市を含む24の自治体から構成される都市圏のモビリティ計画です。法的な拘束力は持ちませんが、大規模なプロジェクトの実施にあたっての方針づくりや、各自治体の取組を支援するための役割を担っています。
PUMでは、リエージュの地区開発計画(SDALg)と目標を共有しつつ、地域ごとの自動車分担率の目標を設定しています。リエージュ都市圏(下図緑色のエリア)では自動車分担率を30%以下、その周辺地域(下図オレンジ色のエリア)では半分以下、それ以外の地域では5〜60%に抑えることを目指しています。
PUM初版は、地元議員の要請から2008年に作成され、その時の調査によりトラム路線の整備計画が具体化しました。しかし当時は、高速道路建設への機運が高まっていたことから公共交通への関心が低く、計画策定の最後のステップである公聴会まで辿り着きませんでした。その後、高速道路建設にかかるコストに対して市民から疑問の声が上がり、公共交通や自転車への関心が高まりました。こうした流れを受け、2019年にはPUMの策定が改めて進められました。今回は公聴会も開催され、その結果、高速道路ではなく公共交通を優先する方針が採択され、現在のPUMが策定されました。
現在のリエージュでは、トラム、BRT、バスが一体的に整備されています。トラムは需要の最も大きい中心部と中央駅リエージュ=ギユマン駅を結び、次に需要の多い区間をBRTが、その他をバスが担う形で公共交通ネットワークが構築されています。また、トラムは環境面にも配慮しており、全体の約3分1の区間で芝生軌道となっています。さらに、市街地内では架線を張ることができない区間があるため、架線区間と非架線区間の両方を走行できる、スペインのCAF社製バッテリー搭載車両を導入しています。


ポイント
- リエージュでは、一度トラムが廃止されたものの、バスだけでの公共交通施策には限界があり、再度トラムが復活することとなりました。また、トラムの復活のきっかけとして都市モビリティ計画であるPUMの作成がありました。
- PUMの策定には、交通事業者やワロン政府など、さまざまな関係者が関わっており、多様な主体と計画を策定するという観点で、SUMP(Sustainable Urban Mobility Plan)と共通する部分があります。一方で、市民との関わり方には大きな違いがあります。SUMPでは、計画策定の各段階で市民との合意形成が求められますが、PUMでは、策定プロセスの最終段階である公聴会において市民との合意形成が行われました。また、PUMの策定にあたっては、都市圏を構成する各自治体や関係団体との関係性が良好であったことから、計画はスムーズに取りまとめられました。ワロン政府のPUM担当者も、「それぞれの地方自治体が持つビジョンが大きく一致していたため、円滑に合意できたのではないか」とコメントしています。
- 計画策定のキーパーソンとして、都市モビリティの専門家であるリエージュ市職員の存在がありました。長年リエージュの交通計画に関わってきたコンサルティング会社から転職したこの職員は、専門的な知識と経験を生かし、計画の推進に大きく貢献しました。
- 現在、リエージュでは、現行のPUMで示されている公共交通ネットワークの実現に向けて、BRTの整備などが進められています。BRTやトラムのプロジェクトが一通り落ち着くと見込まれる2030年ごろには、次期PUMの策定が検討されています。その際には、トラムやBRTの効果をしっかりと評価したうえで、今後の方針を定めたいと、PUMの担当者は考えています。


【資料・参考情報】
①PUM de Liege
