背景
ヘント市は、ベルギー北部のフランダース地域に位置し、国内第3人口となる26万人を擁する都市です。また、周辺自治体と一体の都市圏(23自治体68万人)を形成しており、一体的な政策を展開しています。ヘント大学に代表される文教都市でもあり、学生が人口の約3割を占めていることが特徴です。
20世紀後半、ヘント市では自家用車の普及に伴い、市中心部で深刻な交通渋滞が発生し、大気汚染や交通安全など、都市としての環境が大きく損なわれていました。その結果、ヘント市は買物や居住の場としての魅力を失い、人口も減少していました。都市の衰退に歯止めをかけるべく、ヘント市は1997年から市中心部への自動車の通行を禁止し、歩行者・自転車専用空間の整備や公共駐車場の設置などの取り組みを進めました。しかし、市中心部の自動車交通を遮断したにもかかわらず、市内を通過する車両は依然として減少せず、公共駐車場の整備も、結果的には無料駐車場を探して走行する車を増やすことにつながってしまいました。
そこで市は、2015年から2017年にかけて、「都市モビリティ計画」「駐車場計画」「サーキュレーションプラン(車両の動線計画)」の3つの包括的な計画を策定し、日中の歩行者専用空間の拡大や通過交通の遮断、市中心部の駐車場整備を勧めました。その結果、ヘント市は人を中心としたまちへと生まれ変わりつつあります。


実施内容
ヘント市では、2015年に都市モビリティ計画を策定し、都市中心部の通過交通を抑制する「サーキュレーションプラン」、自転車ネットワークの整備・拡充を図る「自転車施策」、および市内交通の需要をマネジメントする「駐車場政策」の実施と、それぞれの目標像が示されました。
この都市モビリティ計画に従う形で、市は2017年にサーキュレーションプランの具体的な実施内容をとりまとめました。このプランでは、中心部を7つのゾーンに分割するゾーンシステム(トラフィックセルシステム)とし、エリアを跨ぐ移動は中心部を取り囲むの環状道路を経由する形とすることで、通過交通の抑制を図っています。
対象区域はローエミッションゾーンにも指定されており、基準に適合しない車両はナンバープレート認識カメラによるモニタリングや規制を行っています。また、市中心部の歩行者空間(図の紫色のエリア)では、午前11時~午後6時の間、自転車の乗り入れすら禁止され、荷捌きもそれ以外の時間帯でしています。
その結果、ヘント市中心部の自動車交通量の約40%を占めていた通過交通を排除することに成功しました。さらに、自動車交通の減少により、新たな公共空間も創出されました。こうした変化により、歩行者や公共交通利用者に優しいまちづくりが実現しています。



ヘント市中心部にはかつて多くの公共駐車場が設置されていました。しかし、人中心のまちづくりを進める中で、これらの駐車場が街の景観や歩行者空間を損なう要因となっていたことから、2009年より学生や子ども向けのスペースなど、公共空間への再整備が始まりました。


こうした取り組みにあわせて、ヘント市は2016年に「駐車場計画」を導入しました。この計画では、駐車需要を抑制するため、市中心部に近いほど駐車料金を高く設定するほか、居住者と訪問者で料金に差を設けるなど、需要のコントロールを図っています。さらに、パークアンドライドの広報を強化し、公共交通や自転車の利用を促進することで、市中心部の交通量削減に貢献しています。



ヘント市は、1993年に自転車計画を策定しました。この計画には、4つのレイヤ(幹線・支線等)から構成される自転車道ネットワークや、新たな自転車レーン、駐輪場や広報活動に関する内容が盛り込まれており、この方針に基づいて自転車インフラの整備が進められてきました。現在、市の自転車ネットワークは総延長506kmに達しています。また、自動車が自転車の追い越しを禁止する自転車優先道が設定されるなど、旧市街の限られた道路空間で効率的に自転車ネットワークを形成する工夫がされています。
最近では、駐輪場の容量確保が課題となっています。市の玄関口であるヘント駅の駐輪場は7,000台の容量がありますが既に飽和状況です。現在、駅舎の改築に合わせて駐輪場を拡大中で、将来的には17,000台収容できる駐輪場となる予定です。市内の道路空間は既に自転車であふれている場所も多く、今後は道路空間の中で公共交通や歩行者、自転車が共存できる空間を工夫する必要がある、と市の担当者は考えています。




ポイント
- 2015年に策定されたモビリティ計画ではこれまで道路、公共交通、歩行者、自転車などが個別に計画されていたものを総合的な計画に一体化したことが特徴です。
これによりウォーカブルな中心部の都市空間や環境に優しい交通体系の形成が一体的に計画されています。中心部における高幅員の道路が歩行者と公共交通のための空間とされていることは、市の都市空間やモビリティに対する考え方を堂々と表現していると感じられます。 - 歩行者中心のまちづくりを進めた結果、交通分担率は大きく変化しました。
1999年から約20年間で、自動車分担率は約20%pt減少し、自転車分担率は14%から33%へと増加しました。自動車の世帯保有台数についても2015年に1.2台だったものが2021年には1.0台に減少しています。移動実態以外の指標も改善されており、自動車による事故は35%減少し、排気ガスは18%削減されました。それだけでなく、歩行者の増加に伴い、市中心部の店舗では売上が向上し、空き家率も低下したと、市の担当者は述べています。 - 一方で、計画策定時にはステークホルダーとの合意形成が非常に問題となりました。
サーキュレーションプラン導入時には、新聞等で「市の中心地が砂漠になる」と大々的に反対運動をされたこともありました。そこで、ヘント市は、税金のデータや理解のある店舗のオーナーから売上の数値を提供してもらい、プラン実行後の売上の変化をモニタリングし、客観的な指標でプランの効果を示す等の工夫を行っています。 - 計画の実現には行政の組織体制も重要です。
ヘント市役所はモビリティ関連部局に180人の人員を確保しており、モビリティ政策を如何に重要視しているかが窺えます。また、フレミング州との連携も重要で、州が管理するヘント輸送地域の広域モビリティ計画との連携や、州が管理する道路、州が経営する公共交通との連携が不可欠でした。サーキュレーションプランにおいても、中心部を取り囲む環状道路は州の管理下にあり、市の担当者は「州の協力なくしてサーキュレーションプランの実現はあり得なかった」と語っています。

【資料・参考情報】
①Ghent市提供資料
②MOBILITEITSPLAN GENT
③Ghent市
④Mobility policy Ghent
