背景
都市の約80%は公共空間(パブリックスペース)であり、そこには自動車の走行や移動をつなぐリンクとしての「道路」と、人のための目的地となる「街路」という2つの機能が混在しています。欧州では、アムステルダム、オスロ、ヘルシンキ、パリといった大都市でカーフリー(自動車のない空間づくり)を進める潮流が見られる一方、ベルリンや英国では自動車の利用に回帰する動きもあり、道路空間の主役に誰を据えて都市・交通をつくるべきか、意見が分かれている状況です。
こうしたなか、デンマークのコペンハーゲンに拠点を置く都市調査・設計コンサルティング会社ゲール事務所(ヤンゲールが主宰)は、ドイツのカールスルーエ市から委託を受け、市街地の「公共空間・モビリティ計画(Public Space and Mobility Plan)」を策定しました。
ゲール事務所は、街路空間に人のための余地がどれだけあるかを道路の「ポテンシャル」として重視し、市街地の街路で段階的にカーフリーを導入するプロジェクトを進めています。カールスルーエでは2010年以降、路面電車・トラムを地下化する「Kombilösung」事業が進められており、地上に生まれた空間を、緑・パブリックライフ・人にやさしい移動のために再配分できる好機が生まれていたことも背景にあります。

実施内容
ゲール事務所の提案により、カールスルーエ市街地の街路「Passagehof」では、パブリックライフ(公共空間での人々の活動)、緑、モビリティという3つの概念を体現する空間づくりを目指し、段階的にカーフリーを導入して恒久化に向けた整備が進められています。
進め方は、いきなり恒久的な歩行者空間にするのではなく、規制の弱いものから強いものへと段階を踏むのが特徴です。具体的には、ゾーン30(速度規制)やカーフリーデーといった弱い規制から始め、一時的なカーフリーエリアの設定、恒久的なカーフリーエリアの設定、そしてエリアの拡大へと進みます。
Passagehofでは、2022年に期間限定の社会実験(リビングラボ)を実施し、居住者や配送などの例外を除いて自動車交通を抑え、公共駐車場をなくして、その空間を住民や近隣の店舗・飲食店、文化・教育の活動に開放しました。実験の前後で街路空間における人々の活動がどう変わるかを計測し、検証しながら次の段階へ進めています。


ポイント
- ゲール事務所のシニア・プロジェクトマネージャーであるLeon Legeland氏によると、公共空間の価値を高めるうえで重要なのは、モビリティの関係者だけでは公共空間の価値を十分に高めるのが難しい、と認識することです。
- 交通計画の担当者は、行政内部はもちろん、民間事業者や住民を含めたコミュニケーションとコラボレーション、そして政治的な合意形成を念頭に、関係者と歩調を合わせて進める必要があります。
- 日本でも、道路空間を人のための居場所として捉え直す動きが広がってきており、公共空間を「通過するための場所」から「過ごすための場所」へと価値転換していく視点は、市街地の活性化を考えるうえで示唆に富んでいます。
【資料・参考情報】
①Farewell to the car-free city! The creation and implementation of the Karlsruhe Public Space and Mobility Plan (Leon Legeland)
