背景
ドイツ南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州は、ドイツの16連邦州のうち面積で3番目に広く、約1,110万人の人口を擁します。州は2023年に気候保護法と気候変動適応法を改正し、温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに1990年比65%削減、国の目標より早い2040年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げました。
州内のCO2排出量は、輸送部門が約33%と最も大きな割合を占めています。そこで州は、2030年までに輸送部門で排出量を削減するため、従来のSUMP(持続可能な都市モビリティ計画)に「気候に優しい」という概念を組み込んだ「気候モビリティ計画(Climate Mobility Plans/Klimamobilitätsplan)」を策定しています。
この計画では、公共交通の利用を2倍にする、移動の2回に1回を徒歩・自転車にする、都市・郊外での自動車利用を5分の1減らす、自動車の2台に1台を再生可能エネルギー由来にする、物流の半分を気候ニュートラルな手段に転換する、といった具体的な目標が掲げられています。


実施内容
気候モビリティ計画は、欧州共通のSUMPをベースにしつつ、州の気候保護法を法的根拠として位置づけている点に特徴があります。対象は大都市に限らず、おおむね人口5万人以上の自治体で、市町村組合や郡(Landkreis)といった農村部の広域組織も含まれます。それぞれが個別にCO2削減目標を定め、輸送モデルを用いて対策の有効性を定量的に評価することが求められます。
実効性を担保する仕組みとして、財政的なインセンティブが用意されています。州は計画づくりと実施の両面で自治体を支援しており、その柱が「気候ボーナス(Klimabonus)」です。所定の気候目標を満たす計画として州に認定されると、交通インフラ整備への州の補助率が通常の50%から75%に引き上げられます。このほか、計画策定のための専門人材の人件費(4年間)や、調査・モデリングを含む外部委託費に対する補助も用意されており、計画づくりから実施までを一貫して後押しする設計になっています。
こうした取り組みにより、2024年11月時点で19の気候モビリティ計画が策定・実施段階にあり、州の人口の約3分の1をカバーしています。州は2030年までに州全体で44の計画を策定することを目指しています。

ポイント
- この計画の特徴は、輸送モデルを用いたデータに基づくアプローチを制度に組み込んだ点です。対策がどれだけCO2削減に効くのかを定量的に示すことで、「本当に気候変動に効果的な対策は何か」という地元での議論を促し、政治的な議論を客観的なものにできます。感覚論ではなく数字で語れる土台をつくることが、施策の受け入れにつながります。
- 排出量を効果的に減らすには、人の動きが集中する都市部への取り組みが欠かせず、その実現には自治体の協力が鍵を握ります。そのため、地元の政策立案者を計画の早い段階から継続的に巻き込むことが、計画と施策の受容に不可欠とされています。詳細な実施計画と資金調達計画を用意し、市議会の決議として着実に実行していくことが、計画を前に進める力になります。
- この事例は、SUMPという欧州共通の枠組みを、州独自の法的根拠と財政インセンティブで「絵に描いた餅」に終わらせない仕組みへと作り込んだ点にあります。計画の質を揃えるための法的要件、専門組織による支援、モニタリングを一体で整えることで、規模の異なる都市・郡の間でも比較可能な計画づくりを実現しており、目標設定と財源、評価をセットで設計するこのアプローチは、地域交通計画の実効性を高めるうえで示唆に富んでいます。
【資料・参考情報】
①Climate Mobility Plan:Next generation SUMP for more climate-friendly mobility in Baden-Württemberg(Paula Kuss, Annual Polis Conference2024)
