背景
一台の自動車に複数人が乗り合うカープーリング(以下、相乗り)は、乗車人員1人の自動車を減らすことで、交通混雑の緩和や走行台数の削減につながる移動手段です。
欧州の多くの都市では、自家用車に由来する温室効果ガスの削減が大きな課題となっており、ただ便利なだけではなく環境と共存する交通へのシフト、すなわち都市交通のリ・デザインが進められています。その一手段として、相乗りを公共交通の一部として位置づける動きが広がっています。
フランスのKaros Mobility社は、フランス、ドイツ、デンマーク、スペイン、スイス、イタリア、オランダの欧州7か国で相乗り事業を展開する事業者です。「空席を新たな公共交通手段に」を掲げ、都市の公共交通機関と統合された相乗りネットワークを構築しています。同社副社長のAnaïs Timon氏によると、パリ大都市圏(イル・ド・フランス、パリ市を除く)では、大量輸送を担う公共交通の幹線がカバーできる住民は約36%にとどまります。これに相乗りネットワークを重ね合わせることで、カバー率は約96%まで高まるとされています。すなわち、相乗りは公共交通と競合するものではなく、郊外や農村部でも公共交通網の隙間を埋める補完的な役割を担うという考え方です。


実施内容
Karos Mobility社は、欧州の様々な都市で、公共交通の定期券やサブスクリプションサービスに相乗りを統合したサービスを展開しています。利用者にとっては、いつも使う交通系のアプリや定期券の中に相乗りの選択肢が現れ、料金やチケットも公共交通と一体的に扱われる点が特徴です。
リヨン・メトロポールでは、2023年3月より、交通事業者SYTRALのトランジット・パス(TCL)保有者は無料、非保有者は0.5ユーロで相乗りを利用できるサービスが始まりました。プロジェクト開始以降、約18.5万回の相乗りが成立し、約2.6万人が利用、約500トンのCO2削減につながっています。
ドイツのハンブルクでは、2024年2月より、HVV(ハンブルク交通連盟)の通勤定期券「ジョブチケット」に相乗りが統合され、25km以上の長距離通勤を主な対象とし、約2,700人が利用しています。


ポイント
- この取り組みの最大の特徴は、民間の相乗りサービス事業者と行政が一体となり、官民連携で移動をつないでいる点にあります。相乗りが公共交通を補完して機能するには、最適な相乗り相手を手軽にマッチングするサービスやインターフェースを用意するだけでなく、既存の公共交通と連動したネットワークとして設計することが重要です。aros社のサービスは、料金・チケットの統合、乗り継ぎ(インターモーダル)、MaaSアプリ上での相乗りの表示といった形で公共交通と接続しており、あくまで公共交通を補完する位置づけを徹底しています。
- 利用者目線で一つのサービスとしてまとめ上げ、それを行政が主導している点も見逃せないポイントです。フランスでは、民間スタートアップが育ててきた相乗りの仕組みを行政が上手く取り込み、データガバナンスの考え方のもとで公共交通と統合・連携させることで、サービス全体を強靱なものにしています。相乗りを公共交通の一手段として制度に組み込むうえでは、運営の枠組みと財源が鍵となります。例えば、移動を所管するエコロジー移行省が、地域の交通を担う組織であるAOM(Autorité Organisatrice de la Mobilité)の相乗りに交付金を出し、AOMの負担に国が上乗せする原則で支援しています。これにより、イル・ド・フランスでは定期券「Navigo」の保有者が相乗りを無料で利用できます。Karos社のような事業者のサービスは、こうした官民・公的支援の仕組みと組み合わさることで、料金面でも公共交通と遜色のない選択肢になります。
- さらに、個人が通勤・通学で日常的に走らせているマイカーの空席を、そのまま活かしている点も重要です。これは、タクシー会社などの管理のもとで運行する自家用有償旅客運送や、いわゆる公共ライドシェア・共助型ライドシェアとは、似て非なる仕組みです。新たに運送の担い手や車両を用意するのではなく、すでに発生している移動の「空席」を束ねて公共交通網の隙間を埋める点に、このモデルの独自性があります。
【資料・参考情報】
①Synergies between public transport and carpooling (Anaïs Timon,Annual Polis Conference2024)
②karos Mobilityホームページ
③モビリティ知恵袋「政府主導のライドシェア(相乗り)政策、フランス政府」
