背景
フランスのRATP(パリ交通公団)では、鉄道駅や地下鉄駅、バスの車庫等の資産価値を向上させるために、これら車庫と一体的な都市開発を推進しています。駅舎、バス車庫の複合開発(オフィス、商業施設、教育施設、社員寮、荷捌きスペース、公園等)により、都市空間が貴重な市街地において、都市生活に必要なサービスの提供、景観向上、周辺の地域住民への質の高い生活提供にもつながっています。
近年生じている運転士不足の解決のためにも、社員寮や整備工場と一体の施設確保へのニーズも高く、車両の電動化を契機に、排ガスを出さないクリーンな車両特性を活かしたまちづくりにも期待されています。
パリ市内にある25の施設を再編し、2025年までにこれら車庫を再開発する新たな事業を加速させています。バスセンターのうち、15のバスセンターがすでに再開発、再整備されており、7つのバスセンターはバイオメタン対応、残りが電気充電対応のセンターにアップデートされています。

実施内容
モンルージュバスセンター
ジュールダン大通り、ペール・コランタン通り、トンブ・イソワール通り、3つの通りに位置するバスセンターで、2017年に、車庫、整備工場、託児所、市民ホール等の複合開発が行われました。
バス200台(いずれも電動のEV車対応)を収容可能なバス車庫、電動バスの保守メンテを行う整備工場、パリ市の託児所・幼稚園、パリ14区の市民ホール、市民活動スペースの設備、商業施設、住居(学生寮、社員寮、一般向けのアパート)を建設しました。これら施設を10.2万㎡の用地に、1.6億ユーロをかけて整備しています。
2021年から、パリ市内のバス車庫を活用し、日中バスが出払っている空間を新たなに活用する取り組みが始まっています。




バスセンターの複合用途化(Centre Bus de Montrouge・出典②)
パリ市内は古い商用車やディーゼル車両の走行が制限されはじめており、市内の物流車両を小型化、電動化し、カーゴバイクによる配送が普及しています。コロナ禍をきっかけに消費形態が変化し、イルドフランス都市圏内の物流ニーズは22%増加しているそうです。これらサプライチェーンの20%がラストマイルのコストとなっており、このコスト削減につながっています。
モンルージュ、ラグニー等、パリ市内の4つの車庫で実施しており、年間340万箱、市全体の3割以上の脱炭素効果につながっていると試算されています。ディーゼルトラックのCO2削減の他、大気汚染、混雑、騒音解消にもつながっています。
カーゴバイク(バイク<自転車>とカーゴ<貨物>を組み合わせた3輪の車両)とはいっても、積載重量は200kgと軽トラに匹敵する積載量であり、アマゾンなどの民間事業者にバス車庫の空間を提供しています。



日中の空いた空間を都市内物流の積み替え拠点(ハブ)として活用(Centre Bus de Montrouge)
ラグニーバスセンター
ヴァンセンヌ駅周辺、ピレネー通りに面するラグニーバスセンターでは、バス車庫を2階層にして、従前の収容台数を100台から180台に増加し、すべて電動のバス車両に対応した充電施設を備えた車庫としてリニューアルし、また、上層階は、オフィス・学校・幼稚園、従業員用の社宅等の都市施設や、緑地空間を創出した再開発事業により生まれた拠点です。これら施設を、50万㎡の用地に、3.5億ユーロをかけて整備し、施設リース料等で、年間の収益が1700万ユーロといわれています。
また、ラグニーバスセンターでも、2021年2月から、amazon、Miist等の配送業者が、 日中のバスが空いた空間を活用し、カーゴバイクによる集配の積み替え拠点に利用しています。 8~20時の昼間時間帯、600m2の集配スペースでは、最大19トンの大型トラックが収容可能で、20~25台の電動アシスト3輪自転車で、周辺20分圏域に配送することができるそうです。



バスセンターの複合用途化(Centre Bus de Lagny・出典③)


空いたスペースをカーゴバイクの積み替え拠点に活用(Centre Bus de Lagny・出典③)
ポイント
車両の電動化を契機に排ガスを出さない車両特性を活かし、車庫と一体での再開発、まちづくりを推進しています。 従業員用の社宅や整備工場を併設することで、働き方改革、運転士不足への対応にも取り組んでいます。付加価値の高い施設・機能を備えた複合開発によって、資産価値だけでなく、周辺地域の価値向上につながっています。
教育施設等の公共施設、周辺住民のための公共空間を設置し、パリ市等の公的補助を受けることで整備コストを分散しています。また、オフィス、商業施設等へのリースによる収益で、整備コストの計画的な回収も行っています。
日中の車庫の空いたスペースを有効活用し、都市内の物流ハブとして活用することで、ラストマイルの物流事業の民間支援、物流コスト削減、都市内のディーゼルトラックからの温室効果ガスを排出しない、小型の電動カーゴバイク活用による脱炭素化の推進、騒音削減に貢献しています。
【資料・参考情報】
①RATP GROUP
A PARTNER OF CITES(2023.11,RATP)
③ICLEI
https://sustainablemobility.iclei.org/paris-bus-depot/
④牧村和彦(2024)
パリで進むモビリティー革命 「バスの車庫」を再開発、日経新聞電子版