背景
欧州では、2010年代を中心に、ITS (Intelligent Transport Systems)指令に基づき、加盟国ごとにナショナルアクセスポイント(NAP)の整備が進められてきました。その結果、交通データを公開・共有するための基盤は一定程度整ったように見えましたが、運用が進むにつれ、「NAPが存在すること」と「データがつながること」は必ずしも同義ではないという現実が明らかになっていきます。
公共交通、道路交通など分野ごとにNAPが分かれている国もあれば、データの記述方法や品質基準、提供手段が国ごとに異なるケースも少なくありませんでした。そのため、制度上はNAPが整っていても、国境を越えたデータ連携や、EU全体での相互運用性は十分に確保されていないという課題が浮き彫りになっていったのです。
ここで欧州が直面したのは、分散型で整備されたデータ基盤を、いかにして全体として機能させるかという問いでした。単一の巨大なプラットフォームに集約することは、各国の行政体制やデータ主権を考えれば現実的ではありません。一方で、各国が独自にNAPを運用するだけでは、EU全体としての利便性や公共的価値を十分に引き出すことはできません。求められたのは集約ではなく、分散を前提とした上での調和と調整でした。
実施内容
NAPCOREは、EU各国で整備が進むナショナルアクセスポイント(NAP)を前提に、その相互運用性を高めるための調整・支援を行うコーディネーション組織です。各国のNAPを一元的に管理・統合するのではなく、ITS指令に基づく仕様やルールが、実際の運用の中でどのように実装されているかを共有・調整し、EU全体としての整合性を高める役割を担っています。
運営体制としては、欧州委員会およびDG MOVEがスポンサーとなり、EU加盟国が参加するステアリングコミュニティが意思決定を行っています。ここでは、各国の行政機関がNAP運用の状況や課題を持ち寄り、共通の方向性について合意形成が図られています。あわせて、交通事業者やサービスプロバイダ、関連団体などが参加するアドバイザリーボードが設けられ、実務や市場の視点から助言を行う体制が整えられています。
NAPCOREでは、仕様やガイドラインを「作って終わり」にするのではなく、実際にNAPを運用する各国の行政担当者を対象に、ワークショップや情報共有の場を通じて、制度の背景や運用上の考え方を伝える取り組みも行っています。現場の行政職員が、データ標準や相互運用性の意義を理解した上で判断・運用できるよう、リテラシーの底上げや実務的な知見の共有を図っている点も、NAPCOREの重要な役割の一つです。

- メタデータカタログの作成
- 加盟国のNAPsメタデータのカタログ(mobilityDCAT-AP )をリリースしており、他のプラットフォームでも利用を促すことで、データの表現の統一を目指しています。
- データ辞書の作成
- 言語が違う場合にデータ交換が上手く機能しない、同じ単語でも国によって違う意味があり等の、問題を解消するため、ステークホルダー間でデータの共通理解を促すためのデータ辞書を作成しています。
- 【データ標準の提供】
- データ品質に関して、よい品質とはどれくらいでないといけないか、標準的なデータ規格を定め、フレームワークを作成しています。
- 相互運用性に関して、データの再利用等、サービスプロバイダによるデータ活用のルール、ライセンスを検討し、ガイドラインを作成しています。
- 【NAP運用への助言】
- 交通のデータに関わる多様なステークホルダーと連携して、どのようなデータをNAPで使えるようにすべきか等のアドバイスを実施しています。

ポイント
- 【制度を作っただけでは、データはつながらない】
- 欧州ではITS指令によりNAPの設置が義務化され、制度面の整備は進みましたが、実際の運用段階では、国や分野ごとの違いにより相互運用性に課題が残りました。NAPCOREは、制度設計の「その後」に生じるズレを埋める役割を担うことで、分散したデータ基盤を実際に機能させています。
- 【分散型を前提にした「調整専門の組織」の機能】
- NAPCOREは、各国のNAPを統合するのではなく、各国の主権や既存システムを尊重した上で、仕様や運用の調和を図っています。単一プラットフォームに集約しないという選択は、現実的で持続可能なデータガバナンスの一つの解であり、日本においても参考になるアプローチです。
- 【運用・合意形成を支える仕組みへの投資】
- メタデータ、データ辞書、品質ガイドラインといった地道な取り組みを積み重ねることで、異なる主体同士が「同じ言葉・同じ前提」でデータを扱える環境を整えています。これは、データ利活用を進めるうえで、技術以上に重要な基盤であることを示しています。
- 【多様なステークホルダーの巻き込み】
- 加盟国による意思決定と、事業者等が関与するアドバイザリーボードを組み合わせた体制により、制度と現場、市場の視点を接続しています。データガバナンスは行政の内部論理だけでは成立しないという点も、日本で制度設計を進める際の重要な示唆といえます。
【資料・参考情報】
①Creation of a common European mobility data space (EMDS)(2024.11, European Commission)
②a graphical overview of all active National Access Points in Europe(European ITS Platform)
③NAPCORE Initiatives(2025.11,David SchoenmaekersMinistry of Mobility and Transport, Belgium)
