背景
都市環境と健康との関係については、近年、科学的な根拠が積み重ねられています。一方で、実際の都市計画の議論では、健康への視点が見落とされがちでした。
スペインに本拠を置くHealthy Cities社は、健康と都市の関係が持つ可能性を最大限に引き出すことを目指す企業です。「都市計画は健康のための手立てであり、都市は健康をつくる手立てでもある」という考え方のもと、健康を都市計画に組み込むための研究やガイドライン、ツールの開発を、欧州を中心に進めています。
実施内容
Healthy Cities社は、モビリティ計画を「都市設計に健康を組み込むための重要なツール」と位置づけています。徒歩や自転車などのアクティブ・モードを後押しし、公共交通を使いやすくし、自動車中心のインフラがもたらす悪影響を和らげることで、健康への配慮を持続可能な都市モビリティ計画(SUMP)に統合しようという考え方です。
その実践のために、同社は実用的な手引き「Mobility is key for Health(モビリティは健康の鍵)」を提供しています。この手引きは、既存の科学文献を総合的にレビューし、移動や交通に特に関連する健康の決定要因を整理したうえで、ウォーカビリティ(歩きやすさ)、サイクラビリティ(自転車での移動しやすさ)、公共交通、自動車交通、都市環境という5つの主要分野に分類しています。計画の各段階(診断・提案・モニタリング)で健康の観点をどう織り込むかを、チェックリストなどの形で具体的に解説しているのが特徴です。
さらに同社は、都市計画の担当者や医療専門家、政策立案者が健康の観点から施策を検討・評価できるダッシュボード型のツール「Healthy Cities tool(Healthy City Generator)」を、EIT Urban Mobilityおよびリスボン大学と共同で開発し、Web上で無料公開しています。利用者が都市の特性や健康上の優先事項、計画に盛り込む施策などを設定すると、身体・精神・環境にわたる多数の健康指標への効果がその場で可視化されます。それにとどまらず、その計画によって毎年どれだけの健康関連コストを削減できるかを試算する点も大きな特徴で、すでに欧州の20以上の都市で活用されています。

ポイント
- この取り組みのポイントは、健康と都市計画の関係が学術研究や論文の段階にとどまらず、実際の都市・交通計画づくりの現場で使われる実用ツールにまで落とし込まれている点にあります。手引き「Mobility is key for Health」は、バルセロナ大都市圏の交通当局ATMと連携して作られ、持続可能な都市モビリティ計画(SUMP)に健康の観点を組み込むための実務ガイドとして用いられています。評価ツールも既に欧州の20以上の都市で活用されており、絵に描いた構想ではなく、計画の現場で回り始めている点に新しさがあります。これは日本で言えば、地域公共交通計画や都市・交通のマスタープランに、健康への効果という評価軸を正式に組み込んでいく動きにあたります。
- これまで定性的に語られがちだった「健康に良いまちづくり」を、複雑なデータを必要とせず誰もが扱えるツールに落とし込み、施策の効果を金額や具体的な健康指標として見える化したことで、専門家から意思決定者、市民までが同じ土台で議論できるようになっています。都市計画に健康の視点を組み込むうえでの障壁は、技術的なものよりも、関係者間の合意形成や運用面にあります。効果が金額や具体的な健康指標として示されることで、部局や立場を越えた対話がしやすくなり、ビジョンの共有や合意形成を後押しする役割が期待できます。



【資料・参考情報】
①health cities (Ruth Gow McLenachan, Annual Polis Conference2024)
②Healthy Cities ホームページ
