はじめに
近年、地域における移動手段の確保は、人口減少や高齢化の進展により、ますます重要な課題となっています。特に地方部においては、公共交通の維持や新たな移動サービスの導入が求められてきました。
こうした背景のもと、経済産業省と国土交通省が連携し、2019年度から開始されたのが「スマートモビリティチャレンジ」です。本事業は、MaaS(Mobility as a Service)や自動運転などの新たな技術・サービスも活用しながら、地域の移動課題への対応を進める取り組みとして展開されてきました。
この取り組みは約7年間にわたり全国各地で進められ、2025年度に1つの区切りを迎えました。これまでの取り組み内容や成果については、ガイドブックや事例集といった形で経産省のHPで整理・公開されています。

公開されている資料では、各地で進められてきた取り組みが事例として紹介されています。都市部や地方部、観光地など、地域ごとの状況に応じた取り組みが掲載されており、対象とする課題や内容もさまざまです。
また、こうした事例に加えて、複数の取り組みを横断する形での整理も行われています。取り組みの進め方や検討の流れ、関係者の関わり方などについても示されています。
地域での移動のあり方を考える上で、他地域で行われた事業で得られた知見は参考になるものが多く、実装に繋がったものだけでなく繋がらなかったものも含めて資料が公開されている事は大変参考になります。自分の地域で検討している事業と類似事業が無いか、この機会に探してみるのはいかがでしょうか。
経済産業省「令和7年度「スマートモビリティチャレンジ」事業の成果と7年間の取組総括」
各地で進められてきた地域モビリティの取り組み
公開されている資料では、スマートモビリティチャレンジの事業として各地域で行われた取り組みの詳細が紹介されています。詳細な資料は事業が行われた年度ごとに分かれて公開されています。ここでは、令和7年度事業の実施内容について少しだけ紹介します。
秋田県仙北市
目指したい成果
- 自動車関連事業者と連携した、リースtoシェアのビジネスモデル(車両を地域事業者にまとめてリースし、複数の地域事業者がシェアリングサービスを提供するモデル)の育成とシェアリングプラットフォームの構築
- 観光地が広域に点在するエリアでの特定小型原付導入による観光客の周遊促進
実証内容
- 田沢湖地域周辺における特定小型原付等の利用予約ウェブアプリ「akimo」を通じた提供
- 車両運用を協⼒いただく観光関連事業者に対する収入の還元と集客・回遊性の向上
神奈川県横浜市
目指したい成果
- 都心近郊型のデマンド交通を自動運転化していく際の課題の洗い出し
- 都市近郊型のデマンド交通の実装・収支率の向上に向けた検証
実証内容
- デマンド交通「あおばGO!」の子育て世代をターゲット層とする利用促進施策の実施(子育て関連施設との連携、イベントでの利用促進活動、特別定期券の販売等)
- デマンド交通の自動運転化を見据えた、デマンド交通シミュレーター等による自動運転の適用可能性検証
富山県富山市
目指したい成果
- 地方部でのe-Palette活用のユースケースの創出(実証実験はe-Paletteの代替車両で実施)
- ウォーカブルな街づくりを目指す富山駅周辺での賑わい創出・周遊性向上
実証内容
- 将来的なe-Paletteの導入によって、1台で複数の地域課題を解決するユースケースを検討
- 「人を運ぶ」時間と「それ以外の用途」時間を明確に分け、1日の中での最適な運行スケジュールを検証することで、e-Palette導入を仮定した際の車両運用効果を最大化し、事業成立性を検証
三重県多気町・大台町・度会町
目指したい成果
- 複数年に渡り実証を行ってきた中山間地域でのサービス提供モデルの最終とりまとめ
- 小規模自治体の生活圏を繋ぐ移動サービス(複数自治体ライドシェア)の提供による生活サービスへのアクセス向上
- MSP構想を参考としたデータ利活用の実証
実証内容
- ①複数自治体が連携したライドシェア、②自治体の公用車と住民の利用を兼ねたカーシェアについて、その利用や満足度・社会受容性、地域のニーズ・公益性を確認
- コスト、収入、ドライバーの確保等から、各事業の事業性を評価
島根県大田圏域
目指したい成果
- 複数医療施設との連携により、地域で実装可能な医療MaaSモデルの育成
- 医療MaaS(自動車関連事業者の新規事業)の有用性の証明
- 医療MaaSを自動運転化していく際の課題の洗い出し
実証内容
- 複数医療機関が車両を共同利用することによる医療MaaSの持続可能性向上の検証
- 地域事業者(医療機関以外)が運営・配車等を行うモデルや、車両タイプ別の運行範囲や収支構造の検証
各地域で得られた知見については、コチラをご覧ください。
7年間の取り組みを通じた整理について
スマートモビリティチャレンジ7年の活動の成果として、73地域で行われた事業を横断的に分析した総括資料が公開されています。この資料では、各地域の個別事例の紹介にとどまらず、取り組みの進め方や検討の流れ、実証から実装に至るプロセスなどについて、複数の事例をもとに共通して見られる内容が示されています。あわせて、実施にあたっての課題や、進めていく上での留意点などについても触れられており、事例を横断した形で全体像を捉えることができる内容となっています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20260327_4.pdf
また、これから地域で移動手段を考える人に向けて、成果をガイドブックとして公開しています。このガイドブックでは、スマートモビリティの考え方や全体像に加え、「構想」「実証」「実装」といった段階ごとの進め方が示されており、地域での検討を進める際の流れを体系的に把握できる構成となっています。単なる解説にとどまらず、実際の事例やQ&A、コラムなども織り交ぜながら、具体的な検討イメージを持てるよう工夫されています。
さらに、ワークシート形式で自らの地域の状況や課題、アイデアを書き込みながら検討を進められるようになっており、読み進めるだけでなく、実際の取り組みに活用することが想定されています。
全国各地の事例から得られた知見が随所に盛り込まれており、個別事例とあわせて確認することで、取り組みの進め方をより具体的にイメージできる内容となっています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20260327_5.pdf
地域モビリティの検討にどう活かすか
本記事で紹介してきたスマートモビリティチャレンジの取り組みは、地域ごとの状況に応じてさまざまな形で進められてきました。それぞれの取り組みには、検討の過程や工夫、課題への向き合い方など、多くの示唆が含まれています。
まずは、自らの地域に近い条件や関心のあるテーマの事例を一つ取り上げ、その背景や進め方を丁寧に見ていくことが一つの出発点になります。どのような課題を前提にし、どのような検討を経て取り組みが進められているのかを追っていくことで、具体的なイメージを持つことができます。
その上で、他の地域の取り組みや総括資料に目を向けていくと、個別の事例だけでは気づきにくかった共通点や違いが見えてくることもあります。こうした視点の行き来によって、取り組みへの理解を少しずつ深めていくことができます。
また、実装に繋がったものだけでなく、そうでない取り組みも含めて確認できる点も重要です。うまくいった点だけでなく、検討の過程や試行の内容にも目を向けることで、自らの地域での検討に活かせるヒントを見つけることができます。
気になる事例を手がかりに、自らの地域でどのように移動の仕組み作りを進めていくか、考えてみてはいかがでしょうか。

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