背景
1960年代、欧州においてモータリゼーションの急速な進展が招いた渋滞や交通事故、環境汚染が多くの都市で社会問題となる中、ハンブルク市では、1965年に異なる複数の交通事業者間の協働組織として、交通連合(ハンブルグの組織名はHVV)が欧州で初めて結成されており、欧州の中でも常に最先端の都市交通政策に取り組んでいる都市の一つです。
近年は、包括的な交通改革戦略であるハンブルク・タクトを策定し、2030年までに55%の温室効果ガス削減を目指し、まちなかにおいては、グリーンな移動手段を誰もが利用できる都市環境の整備を推進してきています。
実施内容
交通連合のHVVが市内の様々な移動サービスを一元的に計画・運営しており、公共交通(郊外鉄道、地下鉄、路線バス、水上交通)と、民間のオンデマンド交通(MOIA)やカーシェアリング、電動キックボード等を交通結節点や自動車利用の高い地域、低所得地域等に集約したモビリティハブ(HVV Switch Pointと呼ぶ)を計画的に集約整備し、化石燃料による2~5kmなどの短距離移動をグリーンな移動に転換する、選択肢を提供する取り組みを推進しています。
2023年10月時点でHVV Switch Pointは市内約150か所に配備されており、2024年末までに約200か所の整備を目指しているそうです。モビリティハブの移動サービスは、市内で普及しているご当地MaaSアプリ(HVV Switch、2023年10月末で110万DL)から24時間いつでも利用が可能です。
写真のようにご当地MaaSのロゴとモビリティハブのロゴは統一されており、マイカーユーザーでも認識できるようなデザインと配置が工夫されており、写真の大規模なモビリティハブには、モビリティ相談所も併設されており、EVのカーシェア、自転車シェア等、バス停留所が一体で、駅の駅広のスペースに上手く配置されている点も特徴的です。

市内150か所にモビリティハブが計画的に配備されている(出展①)


旧市街地内も主要駅でグリーンな移動手段を手軽を利用できる環境が整っている
ポイント
車両の電動化を契機に排ガスを出さない車両特性を活かし、車庫と一体での再開発、まちづ温室効果ガス削減という目標の下、市内の化石燃料による短距離の移動手段を少しでもクリーンな移動サービスに転換するための機会を行政が積極的に創出している点が特徴的です。モビリティハブのそれぞれの移動サービス自体の運営は民間事業者各社が担っており、官と民が移動データを連携することで、都市の移動の安全性や安心してお出かけできる環境整備を実現している都市です。
交通連合が根付いている都市において、さらに移動手段をワンチームで統合することで、個々の移動サービスのアプリを立ち上げる必要がなく、一つのご当地MaaSアプリから、市内の全ての移動手段が利用でき、バーチャルな交通連合として進化を続けています。モビリティハブの移動サービスは、これらご当地MaaSから利用できるため、スマホが移動サービスの鍵となり、24時間、無人で手軽にクリーンな移動体験ができ、リアルな公共空間(パブリックスペース)の新しい活用方法としても、注目される取り組みです。
また、ウォーターフロント地区などの再開発と一体でモビリティハブを設置することも推進しており、まちづくりとモビリティ・サービスが一体となり、マイカーだけに依存しない持続可能な都市をDXとGXが連携しながら、官民連携して進められている都市でもあります。

【資料・参考情報】
①AWHT - Auf dem Weg zum Hamburg Takt
Bundesförderprogramm unterstützt Modellprojekt zur Stärkung des ÖPNV in Hamburg(Hunburg Hochbahn)
②中村文彦:ハンブルク市の交通改革「ハンブルク・タクト」、CAR&DRIVE 2024年3月2日
https://www.caranddriver.co.jp/column/66990/
③牧村和彦(2022)
脱「100m先も車移動」 地方の課題を解決する「モビリティハブ」とは、メルクマール2022年1月20日
https://merkmal-biz.jp/post/5531
④牧村和彦(2023)
ドイツの「MaaS先進都市」最新現地リポート 日本と何が違うのか、日経クロストレンド2023年12月18日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00582/00024/