背景
ユトレヒトと聞くと、まず思い浮かぶのは「自転車のまち」というイメージかもしれません。実際、日本でもユトレヒトは、充実した自転車インフラや世界最大級の自転車駐輪場を備えた都市として紹介されることが多くあります。しかし、ユトレヒトの都市交通政策を考えるうえで注目したいのは、自転車政策だけではありません。市の中心部にあるユトレヒト中央駅の再開発も、交通とまちの関係を考えるうえで示唆に富んでいます。
かつてユトレヒト中央駅周辺では、鉄道や駅施設、道路空間などによって駅の東西方向が分断され、都市のつながりが弱いことが課題となっていました。この課題に対し、ユトレヒト市は中央駅周辺の再開発を通じて、駅の東西方向に新たなつながりを生み出してきました。駅前広場や歩行者・自転車橋、バス・トラムターミナル、運河の復元などを段階的に整備し、さらに2022年には駅の西側と東側に分かれていたトラム路線を直通化することで、都市空間と公共交通ネットワークの両面から駅の東西を結び直しています。
本記事では、ユトレヒト中央駅を題材に、駅を都市の分断点から、鉄道、トラム、バス、自転車、歩行者をつなぐ結節点へと変えるために、どのような再開発が行われたのかを紹介します。



駅と中心市街地を分断していた道路を運河に再生(左事前、右事後・出典②)
実施内容
ユトレヒト中央駅周辺では、鉄道が東西方向の移動を遮り、駅と旧市街の間では大型商業施設や道路化された運河が歩行者動線を複雑にしていました。駅は本来まちをつなぐ場所であるはずが、東西の都市空間を隔てる境界のようになっていたことが、長年の課題でした。
こうした状況を見直すため、1980年代から駅周辺更新が検討され、2002年の住民投票を契機に再開発が具体化していきます。この住民投票では、駅周辺を大きく再編し、道路化されていた運河を再び水辺として復元する方向性が選ばれました。その後、現在にかけて、分断されていた駅周辺を都市空間と交通ネットワークの両面からつなぎ直す整備が進められています。
歩行者・自転車については、中央駅南側に歩行者・自転車橋を整備し、駅の西側と東側を結ぶ新しい動線をつくりました。橋上には並木も取り入れられ、単なる横断施設ではなく都市の中を自然に移動できる空間となり、線路を越える移動の選択肢が増えています。自転車については、駅前に12,500台を収容する世界最大規模の駐輪場を設け、駅に集中する自転車を駅直近で受け止める仕組みを整えました。以前は駅周辺に自転車が散在し、駅前空間を圧迫していましたが、駐輪場に集約することで歩行者空間を確保し、駅に近い場所で駐輪できるようになっています。天候に左右されにくく、鉄道、バス、トラムへの乗換も容易になり、自転車と公共交通をつなぐ交通結節インフラとして機能しています。

公共交通では、増加する利用者に対して、鉄道、バス、トラムの乗換が複雑で分かりにくいことが課題でした。そこで、駅の東西両側でターミナルが再編されました。東側では、道路を渡らずに駅から直接アクセスできる位置にバス・トラムターミナルが整備され、西側でも駅前広場と結びつく形でバス・トラム乗り場が整えられています。これにより、駅周辺に分かれていた公共交通機能が整理され、中央駅は鉄道、バス、トラム、自転車、徒歩が重なり合う交通結節点として機能しています。さらに2022年には、駅西側方面と東側方面のトラム路線が、中央駅をまたいで直通するようになりました。これにより、駅を境に分かれていた公共交通の分断が解消され、東西方向の移動がよりシームレスになっています。
駅から旧市街へ向かう歩行者動線も、再開発の中で整えられました。道路化されていた運河を水辺として復元し、運河沿いの商業施設や歩行者空間を再編することで、駅から旧市街へ自然に歩いていける流れがつくられています。かつて道路や大規模施設によって弱くなっていた駅と旧市街の関係を、水辺、広場、商業施設を介して人が流れる空間としてつくり直した点も、この再開発の重要な特徴です。
ポイント
- ユトレヒト中央駅周辺の再開発のポイントは、駅前広場、駐輪場、歩行者・自転車橋、バス・トラムターミナル、運河復元を個別の施設整備としてではなく、駅周辺をつなぎ直す一体的な取り組み、駅まちとして進めた点にあります。
- 歩行者・自転車の横断動線、自転車と公共交通の乗換、トラムの直通化、旧市街へ向かう歩行者空間を重ね合わせることで、中央駅は都市を分断する場所から、東西のまちと多様な交通モードを結び直す人を中心とした結節点に変貌を遂げており、駅前広場計画のお手本と言えます。



【資料・参考情報】
①再開発前のユトレヒト中央駅周辺|Het Utrechts Archief、Fotodienst HUA(カタログ番号843614、CC BY 4.0)
https://hetutrechtsarchief.nl/beeldmateriaal/
②道路化されていたカタライン運河の様子|Het Utrechts Archief、Wijk C Komitee(カタログ番号861193、CC BY-NC 4.0)
https://hetutrechtsarchief.nl/beeldmateriaal/
