東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦
自転車・バイク・自動車駐車場 パーキングプレス 2023 7月号
モビリティをデザインするアプローチ 第67回より
1.はじめに
公益社団法人日本交通計画協会の研究活動のひとつ、「BRT等新たなバス交通システム研究部会」(部会長中村文彦)によるフランス地方都市のBRT事例視察調査が、コロナ禍を経て、2023年5月にようやく実施された。筆者は部会長として調査行程の一部に参加させていただいた。
今回は、筆者が参加した、アングレーム市およびバイヨンヌ市のバスについて、我々が、日本のバスのあり方として学ぶべき点をまとめた。
2.トラム代替としてのBHLS(BHNS)
BRTについては、これまでもこの連載記事で何回かにわたって述べてきたように、いくつかのバリエーションがある。正式な用語としては1996年に米国で用いられたものが最初といえるが、当初のイメージは、南米や中国の事例のような大規模な専用道路ネットワークと駅から構成される大量輸送イメージのもので、いわば地下鉄や高架軌道導入の代替選択肢であったといえる。2004年に欧州の国際公共交通連合が提唱を始めた「BHLS(Bus with High Level of Service)」(フランス語では「BHNS(Bus à haut niveau de service )」。以降、フランスの事例ではBHNSを用いることとする)は、もう少し小規模なシステムに対して用いられている。フランス各都市の事例をみる限り、地下鉄代替というよりは、トラムの代替選択肢としてみなすほうが適切なように理解できる。トラムを新規に導入しようとするも財源的な理由や、急坂が多く鉄路では困難という技術的な理由等からトラムではなくバス、すなわち、BHNSを提案しているように見受けられる。
3.アングレーム都市圏のBHNS
フランス南部ボルドー市から60kmくらい北側に位置する都市圏人口14万人のアングレーム市は、2019年に都市圏内の交通体系の大転換を行った。BHNSが2路線、幹線11路線、支線4路線、オンデマンドサービス(「DRT(Demand Responsive Transport)」)28区域、一般混乗可能なスクールバス28路線から構成されるシステムは「メビウス」という名称で親しまれている。
BHNSは、18.5kmの路線1と12.6kmの路線2から構成され、中心市街地で交差している。路線1は、玄関口となるフランス国鉄駅も経由している。車両はハイブリッド車で、多くが連節車両になっている。日中の運行間隔は10~15分間隔になっている。
【写真1】にあるようにBHNS用の車両の車体デザインは大胆である。
【写真2】および【写真3】からわかるように、ラウンドアバウトを縦断するようにバス専用道路が設定されている。写真からはわかりにくいが、優先信号制御が導入され、バスはラウンドアバウントを含む交差点区間で無駄に停止することはない。
【写真4】にあるようにバス停部分は舗装塗色をより明るいものにし、バス停前後に横断歩道を設置している。バスがバス停に停車している間は、すべての車両は追い抜くことなく後ろで待っている。




4.バイヨンヌ都市圏のBHNS
ボルドーから南西に150kmほど離れた、フランス側バスク地方の中心都市バイヨンヌ都市圏は人口30万人弱で、アングレームよりはやや大きい。こちらも2017年に都市圏全体のバスネットワークを再編した。ニックネームは、地元の球技でのボールの跳ね返る擬音をもとにした「ティクシャク」というネーミングである。ボールが床で元気に跳ね返るようにネットワークが接続しているイメージという説明を市役所から受けている。そして、このネットワークの核をなす2つのBHNS路線は2019年に運行を開始した。
基本的にはアングレームと似ているが、車両については大きく異なる。ハイブリッドではなく100%電動のもので、路線の端点にてパンタグラフを用いて、約3分で急速充電を行っている。車両デザインのインパクトは大きく、メッス市の「METTIS」とも類似している。一見最新型のトラムのようにもみえ、BHNSのニックネームも「ラ・トラム(トラムバス)」となっている。
車体には「100%電動」「アクセスしやすい」「環境にやさしい」等のキャッチフレーズが描かれている。バイヨンヌのBHNSでは連節車両の4か所のドアのうち3か所を乗降共用とし、各ドアのところに認証装置がついている。駅で購入できる専用の乗車券(ICカード)か、タッチ決済可能なクレジットカードを用いることができる。乗降口付近には監視カメラが設置されている。現地で観察している限り、すべての利用者が運賃認証器を用いている。(【写真5・6・7・8】)




5.BHNS事例から学ぶべきこと
<車両の存在感>
都市圏のネットワーク全体を再構成し、その核となる2つの幹線路線をBHNSとし、その車両には十分な存在感のあるデザインを施している。ネットワーク全体の再構成と車両のデザインは、市役所の責任で、地方税である交通税による税収で賄われている。BHNSは事業者主導ではなく自治体主導である。
<専用通路の意味>
バスの運行頻度は、南米のBRTよりも少なく、交通工学的に、バスを大型車換算係数で勘案すると専用道路の必要性は存在しない。それでも専用通路を導入可能な区間に積極的に取り入れている。幹線バスの存在感を示すには十分な効果がある。バス停部分のデザインを強調し、バス停部分ではバスおよび利用者が最優先されている。
<優先信号制御の意味>
専用走行区間では数多く優先信号制御が導入されている。バス以外の車両の走行は数秒遅れることになり、それ自体は大きなことではないが、バスの存在感を大きく高めている。
<路線網と街の空間構成>
誌面の都合で路線地図を載せないが、BHNSの路線は、国鉄駅駅前広場も中心市街地も経由するが、それらは起終点ではない。このことは市街地の空間構成と路線網が整合しているという点とともに、路線の起終点を駅前に設定しておらず駅前に無駄な空間を要しない点にも注目するべきである。
<まとめ>
地域との合意の上で、可能な範囲で専用走行路と優先信号制御およびバス停でのバス優先運用を導入し、若干自動車の走行時間は増しているものの、バスの存在感の強力なアピールを実現している。必ずしもバスの分担率が高いわけではないが、自動車を使わなくても市内でのお出掛けは事足りる体系を実現し、日中でも相当量の利用者を確保できている。BHNSを中心とした交通体系の実現は、フランス以外でも不可能ではない。財源問題と優先順位問題を乗り越えること、自治体主導でバスの存在感を強く演出することが、重要な課題である。
【謝辞】
今回の視察では、公益社団法人日本交通計画協会に大変お世話になりました。ここに深く御礼申し上げます。
