東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦
自転車・バイク・自動車駐車場 パーキングプレス 2023 3月号
モビリティをデザインするアプローチ 第65回より
1.はじめに
BRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)については、この連載で、昨年、何回かにわけて論じてきた。筆者としては2006年の拙著、2016年の共著を経て、BRTについてはある程度整理を完了させたつもりである。しかしながら、実際の日本での記事やインターネット上での情報を見ていると、BRTについてはまだまだ整理すべきことがいくつかある。 BRTをきわめて過小評価している論調があるだけでなく、BRTを過大評価している論調もある。
どの交通手段もそうだが、その特性を十分に理解して、その能力が十分に発揮できるようにすることが重要であり、それは車両、道路インフラ、サービス、運営の仕組み、財源といった諸項目だけではなく、沿道の土地利用、都市構造等も絡んでくる。今回は、BRTに関する話題のうち、鉄道廃線跡活用のBRT化の話題と、そのようなケースでよく見られる話題のひとつといえる自動運転を取り上げる。
2.鉄道廃線活用のBRT
<鉄道廃線後のバス専用道路>
わが国で、鉄道廃線後にその線路空間部分をバス専用道路にした事例は古くからある。比較的最近まで残存していた例としては、富山地方鉄道射水線等がある。多くの事例で、道路運送法に定めるところの運輸事業者が保有管理する道路として扱われてきた。この場合、道路の維持管理費用が事業者負担となるため、運輸事業者にとっては大きな負担となる。バス専用道路としての運用をやめ、道路管理者が維持管理費用を負担する一般道路へと転換する流れになる。北九州市では、【写真1】のような、海外のBRTに遜色ないバス専用道路空間が存在していたが、これは従前の軌道空間を専用道路として用いたものである。
この事例は、道路舗装劣化による騒音や振動問題等が発生する中で、最終的には4車線の都市計画道路になり、バス専用道路は消滅した。

<BRTと呼ばれる事例の登場>
旧国鉄路線および民営鉄道路線の廃線が続く中、バス専用道路化について、全国初の公設民営方式の導入により、道路運送法の道路ではなく道路法の道路として実現し、BRTという名前を用いた最初の事例が、2007年に廃線された茨城県の鹿島鉄道の跡を活用した「かしてつBRT」である。【写真2】
かしてつBRTの実証運行が2010年、本格運行は2012年になる。混雑している時間帯の並行道路の一般自動車交通よりも速く、従来のバスのイメージを払拭する努力をしている点で、正真正銘のBRTを目指したものと評価できる。
茨城県では、2005年に廃線になった日立電鉄路線についても同じ手法で公設民営によってバス専用道路化し、日立BRTとして2013年に運行が開始された。

<気仙沼BRT>
時期が重なるのが気仙沼BRTである。2011年の東日本大震災で被災した気仙沼線の線路空間の多くをバス専用道路化してBRTと称したシステムである。三陸の被災地域では、大船渡線もBRTと呼ぶサービスになっている。【写真3】
気仙沼BRTでは、運行開始後に段階的に専用道路区間を増強しており、開業当初と比べると速達性は大きく向上している。並行する道路の道路混雑は、かしてつBRTの場合ほど激しくはないが、 BRTは定時性とある程度の速達性を確保している点は評価できる。

<BRT化後の利用者数評価>
かしてつBRT以降のBRT事例については、並々ならぬ地域の努力でBRTを育てているにも関わらず、批判を受けることが多い。利用者数が従前の鉄道時代と比べて少ないこと、BRTのサービスが、特に速達性という点で劣化していることの2点の指摘が多い。
利用者数については、比較の前提を十分に留意する必要がある。鉄道時代とBRT時代で、沿線人口や沿線の一次、二次、三次産業の集積量が異なる場合が多い。鉄道が廃線になるとともに、地域からの人口流出や産業機能流出が著しいことを疑う余地はない。震災を含め自然災害で地域がダメージを受けた場合はなおさらである。鉄道廃線になった翌日にBRTが運行を開始している事例などなく、何年かの空白期間を経てのBRT化であり、その間の前提条件の変化を無視して、「鉄道がBRTになった途端に利用者が激減」等と全国的に報道する事例があるようだが、丁寧さを欠いた議論であり、留意が必要である。
<BRT化後の速達性評価>
一方で、BRTの速達性の問題は、走行速度規制や、交差道路での処理等を要因とするものであり、技術的には解決可能といえる。本連載でも何回か問題提起しているが、優先順位の判断の問題がここに介在する。一般道路全体での自動車交通流の円滑化が最優先される暗黙の合意を明示的に崩していく必要がある。
<BRT化後の駅まわりと立地誘導>
なお、以上の他に、都市計画的な視点を指摘しておく。廃線前から引きずっている問題ともいえるが、沿線の住宅開発、商業施設整備、病院等医療福祉施設立地、役所等公共施設立地、高校等教育施設にはじまり、予備校、娯楽施設からコンビニに至るまで、鉄道駅の近くにある場合が少ない。歴史を辿り、経年変化を見ると、むしろ、この数十年にわたって鉄道駅からどんどん遠ざかっている。鉄道がBRTになってからも、BRT駅は地域の活動から離れたままの場合が多い。
施設をBRT駅近くに移転させるか、あるいは、BRT駅とそれらの施設をつなぐ工夫を地域づくりのサイドで考えることが望ましい。
3.BRTと自動運転
<自動運転BRTへの関心の背景>
BRTと自動運転がつながる背景は、以下の2つの流れであると解釈できる。
まず、自動運転技術の社会実装を推進する大きな動きにおいて、専用走行空間を有する商用サービスを求めていたことを指摘できる。そして、鉄道廃線跡活用のBRTを含むバス事業において、運転士不足が深刻な問題であり、自動運転の社会実装が期待されていたことがある。
筆者が考えるところの国内BRT事例にせよ、国土交通省がガイドラインにかかる資料で取り上げている国内BRT事例にせよ、縁石等で完全に区分された専用道路を走行する事例は多くはなく、今回の記事で紹介した、鉄道廃線跡活用のBRT事例のみである。
というような経緯を経て、鉄道廃線跡活用のBRT事例において、自動運転技術の導入がはじまったように理解できる。
<自動運転で地域信頼性向上を目指して>
当たり前のようだが、交通計画の立場から言うならば、果たして鉄道廃線跡活用のBRTで自動運転導入のニーズとインパクトがどれだけあるのか、丁寧な議論が必要である。
以前にも記したが、運転士不足の根本問題は賃金と労働環境である。一方で、高齢者利用も多いサービスでは車内スタッフの役割は多く、無人化は期待されていない。
一方で、自動運転にかかる諸技術を車両およびインフラに導入することで、交通事故リスクを大きく減らすことができる。また交差点や駅での車両制御により、速達性を向上でき。それらにより、利用者や沿道住民の安心感、信頼感を高めることができる。このあたりの論理を十分に整理し、なぜ自動運転なのか、自動運転によって鉄道廃線跡活用のBRTが、利用者目線で見たときにどのようなプラスの効果をもたらすのか、運輸事業としてはどのような効果をもたらすのか、実装すべき技術はなんなのか、検証すべき視点はなんなのか、自動運転の車両技術の側面だけではない検証が期待される。
4.おわりに
海外でも、鉄道廃線跡活用のバス専用道路活用の事例はないわけではない。英国ケンブリッジのガイドウェイバスの軌道は、従前の貨物線路空間を活用している。わが国では、BRTの一例として、鉄道廃線跡活用の事例が存在感を増してきている。地方鉄道で、特に自然災害で被災した場合において、鉄道として復興することなくBRT化が検討されている事例があるようだが、先行している事例からもわかるように、BRTにすれば済むという安易なものではなく、むしろ、BRTにした場合は、その強み(一般道路に入り込んで必要なら施設へもアクセスできる等)を活かし、地域をどのように支えるのか、の議論が必要である。鉄道さえ残ればなんとかなるということでもなく、BRTならうまくいく、ということでもない。冷静な議論が期待される。ここに自動運転の議論が入り込む場合は、さらに慎重さが求められる。
