東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦
自転車・バイク・自動車駐車場 パーキングプレス 2024 1月号
モビリティをデザインするアプローチ 第70回より
1.はじめに
「ライドシェア解禁」に関する報道が、2023年後半はとても盛んであった。いろいろな場面で、意見や見解を問われた。私よりも著名な大学の先生方の多くも、マスコミ等の取材を受けておられたようである。
本稿を執筆している2023年12月中旬になって、政府内閣官房が一定の方向を示したことで、マスコミ上、ネット上の議論は沈静化すると思われるので、今回は、ちょうどよいタイミングということで、ライドシェア問題に触れておく。
2.前提条件
<ライドシェアとは>
まず言葉の定義から入る。欧米でのuberや東南アジアでのgrabの利用経験がある人たちは、このような、民間企業による、有償の自家用車送迎のスマートフォンによるマッチングサービスをライドシェアと呼んでいる。使い勝手からすると、アプリで呼べるタクシーのようなイメージになる。
専門用語の語源としては若干ずれており、米国では以前より、知人等の自家用車に載せてもらう場合にride shareという単語を用いてきた。アプリで呼び寄せるので、hail(もともとは手を挙げて車を呼ぶニュアンス)を用いたride hailingが、uber等の実態に合致している。因みに、①park and ride(自家用車利用+駐車+公共交通)や②kiss and ride(送迎+公共交通)の類語で、③pool and ride(複数人相乗り利用+(駐車)+公共交通)、④park and pool(自家用車利用+駐車+複数人相乗り利用)と並んで、⑤hail and rideという言い方がある。③は①の応用形で、駅駐車場までも一人乗りではなく相乗り(ride share)で来ましょうという発想である、④は日本でのゴルフ愛好者の一部にみられるもので、駐車場から先は相乗り(ride share)になる。⑤は、路線バスのフリー乗降区間に相当する。バス停のないところでも手をあげれば、リクエストすれば乗れるという形態である。現代のオンデマンド交通(これも専門的にはDemand Responsive Transport(Transit))と呼ぶのが正しい)も該当する。
<解禁とは>
民間企業によるuberのようなサービスが全面的に禁止されているので、それを解禁するという意味で使われているようだが、ここも丁寧な整理が必要になる。自家用車(個人が個人利用の目的で所有している車両)を用いて人を輸送し、その対価をいただくことを自家用有償旅客運送といい法律で定義されている。つまり禁止されていない。ただし、その適用にはいくつかの条件があり、それらを緩和することを「解禁」と呼んでいる。後述の政府とりまとめでは、行財政改革の位置づけとして道路運送法の見直しが提案されている。
<タクシー>
今回の議論を整理するには、タクシーの定義も必要になってくる。車両種類としてのタクシー、道路旅客運送の形態としてのタクシー、事業者としてのタクシー事業は少しずつ異なる意味を持つ。車両については、定員10人以下の旅客運送用の車両はすべてタクシーである。旅客運送という意味では、簡潔に言うと、異なる目的地の人が乗り合うのが乗合で、車両ごとに個別に契約するのが乗用になる。いわゆる路線バスは乗合バスで、小さな車両で路線バスのような運用をするのは乗合タクシーで、それをオンデマンドで実施すると、オンデマンド乗合タクシーになる。乗車するときに行先を告げ、車両を占有して利用するサービスが乗用というものであり、いわゆるタクシーになる。
タクシー事業にはさまざまな規制がある一方で、タクシーは交通計画上は全く取り上げられていない交通手段であった。駅前広場計画等では議論をするが、地域でのタクシーの役割、その中でのタクシー事業者の課題を交通計画で科学的かつ論理的に取り上げることはほぼほぼなかった。筆者は問題の発端はここにあると考えている。タクシー利用需要は、景気の状況等の影響を大きく受けるが、荷物の多い人、足腰が不自由な人、その他なんらかの移動の困難さを抱えている人のためには「乗用」のタクシーが有用であることや、需要の小さいところでは、「乗合」のバスではなく小さい車両を用いる「乗合」のタクシーが有用であることはわかっているものの、それらを計画論として位置づけることも、その事業のあり方を位置付けることも、その中で競争領域と協調領域を整理することも、十分には出来ていなかったと言わざるを得ない。
3.政府のとりまとめ
内閣府のデジタル行財政改革会議第3回での議論結果をもとにした報道が、本稿執筆時点での最新のものである。誌面の都合で内容はここには載せない(※URL参照1)。
ホームページに掲載されている国土交通省の資料では、以下の4点を提案している。①地域の自家用車・ドライバーを活用した運送サービスの提供を可能とする制度を導入、②タクシー配車アプリデータを活用し、タクシーが不足している地域、期間、時間帯を明確化、③自家用有償旅客運送制度を徹底的に見直し、実施しやすさを向上(道路運送法78条2項関連)、④タクシー運転手の不足を解消するため、地理試験を廃止するとともに、法定研修の見直し。次項で①②③について、筆者の懸念点、課題感をまとめておく。
4.いくつかの論点
まず①については、地域にドライバーがいるのかという問題がある。企業勤めの多くの方は兼業ができないし、できたとしても十分な時間が確保できない。仮に効率よく稼げる仕組みになると、現在のタクシードライバーが転職することになるだけかもしれない。地域の労働資源についての精査がどの程度できているのか、不明確である。
そもそもタクシー需要が足りないと言われている場所、時間帯において、その不足分を全て満たす量のタクシーサービスが必要と判断するのか、需要量を調整する政策とどう連動させるのかの議論もない。
筆者としては、地域の方々のおでかけを促進する前提の上で、本当に地域の生活の足が足りない場面を見極めて、そこで提供可能なサービスも見極めて、その上で、運転者を確保できる場面で、自家用車を有効利用することが基本と考える。観光地の需要については、需要の時空間分散再配分や、タクシーの相乗り、バスの工夫等とセットの議論が必要と考える。例えば、東北の震災復旧の場面で、ボランティア大学生の移動を支援する等、必要な場面では、地域の自家用車に乗せてもらう仕組みは極めて有効といえる一方で、メジャーな観光地で道路も混んでいる場面については、対応方針は異なるように思える。
②については、現在のタクシーアプリは、駅前タクシー乗り場付近では利用できないことになっていて、駅まわりのタクシー需要を把握できていない。この点を抜きにした議論は都会の、特に深夜のタクシー需要を見誤るリスクを有する。駅前タクシー乗り場での運用の在り方を見直し、業界としてアプリの利用限定区域の解除可能性の検討が先決である。
③については、地域公共交通会議を基礎自治体で首長がきちんとハンドリングできることが先決と考える。地域交通法(正式には地域公共交通活性化再生法)等の改正に携わってきた身からすると、自家用有償旅客運送については、通常のバスやタクシーでは間に合わない場面でスムーズに実施できるように、地域公共交通会議あるいは活性化協議会を法定化し、そのもとでの法定計画である地域公共交通会議にて、基礎自治体の主導で、関係者間のオープンな議論を経て実現できるように整理してきたにもかかわらず、さらなる「解禁」を求められている点を懸念する。論調の中には、地域公共交通会議が邪魔だというものもある。しかし、基礎自治体の法定会議をその自治体の首長が采配管理できないとすれば、そちらのほうが問題のようにも思える。地域公共交通会議の仕組みを熟知して使いきることを期待する。
- https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi3/gijishidai3.html ↩︎
