背景
マンチェースターから約20km西に位置するリー(Leigh)の街はかつて繊維産業の街として発展し、マンチェスターと鉄道でつながっていました。1960年代の全国的な不採算路線削減の流れの中で、この地域の路線も廃止されると、リーは鉄道の無い都市として英国最大のものとなりました。
リーはマンチェスターへの通勤圏でもあり、鉄道がなくなると近隣都市の駅へバスを利用するか、渋滞のリスクのある自動車を利用するほかありませんでした。この状況の中で1990年代ごろからガイドウェイバス構想の議論が始まり、2000年ごろから具体的な整備に向けて調査や手続きが行われました。
実施内容
2016年にマンチェスター~リー間及びマンチェスター~アザートン間を結ぶ2つの新たなバス系統(V1及びV2系統)が開業しました。これらの系統は、リーからニューアースまで間の7kmでガイドウェイ方式の専用区間を走行し、残りの14kmの区間のうち多くの部分でバスレーンが整備された区間を走行します。V1が1時間に4本、V2が同2本の頻度で運行され、重複する区間では1時間に6本となり、マンチェスター中心部からリーのバスターミナルまで約45分で結び、鉄道に劣らない利便性が確保されています。これまで最大で90分を要していたリーとマンチェスターの間の移動が大きく改善されました。
ガイドウェイ区間の整備はかつての鉄道用地を利用することで、新たな用地取得を行わず、迅速に整備することが可能となりました。あわせてガイドウェイ区間に並行して歩行者、自転車、馬などで利用できるマルチユーザーパス(MUP)を整備することで、地域のウェルビーイングの向上にも貢献しています。


ポイント
- これまで渋滞や不便な乗り換えを強いられていたリーでは、専用空間を他の交通に邪魔されずに快適かつ安定して運行できるガイドウェイバス方式が選択されました。ガイドウェイ方式同様他の車両を排除できる一般的なバス専用道方式と比較して、同等の整備コストながらも道路の技術基準に沿った幅員の確保が不要なことが、マルチユーザーパス(MUP)も同時整備する本計画に適していました。さらに小さい幅員ながら最高速度を高く設定すると同時に、バス停では高い進入速度でもプラットフォームとの隙間を生じずに停車できることもガイドウェイ方式のメリットであり、速達性とバリアフリーをより高いレベルで両立させることにつながっています。
- マンチェスターへのアクセスが高められただけではなく、路線のブランディングと住環境への貢献により、沿線住宅地の価値向上に貢献しています。
- これまで自動車で通勤していた層に訴求するブランディングとして、革張りのシートやテーブル付きコンパートメント座席などで他のバスと差別化を図るプレミアム戦略がとられました。これにより自動車を持たない若者など通勤通学といった通常のバス利用者層だけでなく、ホワイトカラー層の通勤にも使われるようになりました。
- 緑あふれるMUPは沿線の新たな価値を生み出すことにもつながりました。この空間は、歩行者、自転車などが利用できるだけではなく、乗馬にて通行することもできます。バス停への徒歩・自転車によるアクセスはもちろんのこと、緑と触れ合えるレクリエーション空間として、地域価値の向上に寄与しています。
- これらは市民の生活に大きな変化をもたらしただけでなく、新たな住宅開発にもつながり地域の発展を支えています。様々な形で地域に貢献したことで、ガイドウェイバスは地域のシンボル的存在としても親しまれています。
- また、ガイドウェイバスの整備と併せて、地元行政当局により都市の幹線的なバス路線のサービス向上を図るため、「マンチェスターバス優先プログラム」が2012年から2017年に実施され、ガイドウェイバスもその一部として整備されました。ガイドウェイ区間を利用してリー及びアザートンからマンチェスター中心部を経て王立病院まで至るV1及びV2系統はこのプログラムによる整備路線の多くの部分を通行します。ガイドウェイバスの整備が都市の広い範囲のバスサービスの向上をリードした事例という側面も有しています。


【資料・参考情報】
①Improving bus connections between Leigh, Salford and Manchester, TfGM, Dec. 2011 に加筆
②IBS撮影
③Cross City Bus Package and Busway Programme Monitoring and Evaluation Early Findings Report, TfGM, July 2020 に加筆
