背景
欧州の多くの都市では、長年にわたって経験してきた都市化による自然破壊、そして地球温暖化への深い危機意識が根付いており、ただ便利なだけの交通ではなく、環境と共存できる交通政策へのシフト、都市交通のリデザインが加速しています。
ドイツ・ハンブルク市はエルベ川とその支流・アルスター川が交差しする河口に位置し、水と共に生きるまちであり、気候変動の影響を最前線で受け止めています。運河に囲まれた低地にある都市にとって、水位の上昇や異常気象によるリスクは現実のものであり、環境問題への意識を高め、温室効果ガスを都市から減らすことが至上命題となっています。
実施内容
ハンブルク市は、2019年、気候変動対策と都市のモビリティ改革を一体的に進める包括戦略として、「ハンブルク・タクト(Hamburg Takt)」を打ち出しました。Hamburg Taktは、都市のあり方そのものを再設計するプロジェクトであり、「すべての市民が、5分以内に公共交通へアクセスできる都市をつくる」という明快な目標を打ち出しています。
現在、既存の近郊鉄道(Sバーン)、地下鉄(Uバーン)、バスなどの既存の公共交通ネットワークだけで、すでに人口の約85%はカバーされています。ハンブルク市は、残る15%のエリアをどう埋めるか、その答えとしてオンデマンド交通を整備する方針を打ち出しています。
多くの都市では、自動運転やMaaSなど、個別の技術が目的化されがちですが、ハンブルク・タクトでは技術は、あくまで目的を達成するための手段として位置付けられています。

(増便、無人化含む)でカバー、残り15%を無人運転のデマンド交通でまかなう
ポイント
- ハンブルク・タクトの特徴は、オンデマンド交通の導入という個別技術開発に走りがちな分野の導入戦略において、政策目的から逆算した、一貫してわかりやすい戦略を設計している点にあります。
- 2030年にまで「市内どこからもストレス無く公共交通にアクセスできる都市にする」という明確な目的を軸に、デマンド交通、MaaS、モビリティハブ、自動運転といった手段が、有機的に結びつくよう設計されているのです。
- 例えば、市内の15%に及ぶ交通空白・不便地域をオンデマンド交通でカバーするためには、多くの車両と乗務員が必要になります。これを持続可能な形で実現するには、自動運転技術の導入が不可欠です。
- さらに、既存の交通モードとオンデマンド型サービスをスムーズに接続する基盤として、Maasアプリによりデジタル空間で交通手段を統合し、モビリティハブでリアル空間をつなぐ。この両輪によって、公共交通、オンデマンド交通、自転車、電動キックボードといった多様なモビリティが一つの交通網として機能するようになります。その結果、コンパクトな都市構造を維持しながら、新たな移動サービスを都市になじませていく巧みなリデザインを実現するものです。
- Hamburg Taktは、単なる交通計画ではなく、クルマ、自転車、公共交通、オンデマンド交通が共存する持続可能な都市へ、都市の在り方そのものを再定義するビジョンとして、大きなヒントを与えてくれるものです。

【資料・参考情報】
①Metropol-Modellregion Mobilität Hamburg(Hunburg Hochbahn、2023年11月)
②Unser (Klima-)Plan für die Mobilitätswende(Hunburg Hochbahn)
③中村文彦:ハンブルク市の交通改革「ハンブルク・タクト」(CAR&DRIVE)
④牧村和彦:独ハンブルク市、「1万台の自動運転バス」計画の衝撃(日経新聞電子版)