東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦
自転車・バイク・自動車駐車場 パーキングプレス 2022 9月号
モビリティをデザインするアプローチ 第62回より
1.はじめに
国土交通省社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会においてBRTが取り上げられていた。筆者は同部会のメンバーではないが、資料はインターネット上に公開されていて誰でも閲覧できる。今回は、この公開資料を取り上げて、筆者のBRTに対しての考え方を具体的に示すこととさせていただく。以下で引用する図表はすべて同部会資料である。
2.BRTの説明
(1)定義
同資料では、「BRTとは、走行空間、車両、運行管理等に様々な工夫を施した次世代のバスシステムであり、速達性、定時性、輸送力について、一般の路線バスよりも高度な性能を発揮し、他の交通機関との接続性を高めるなど利用者に高い利便性を提供するシステム」とされている。到達目標の説明では、細かい点だが若干気になる表現があった。(表1)

まず、速達性において、他の交通手段に劣らないと述べられているが、これは混雑時に渋滞する隣接車線をすり抜けていくこととは異なる。むしろ渋滞のない道路で他の車両と同じ走行速度であることを狙っているように読み取れる。一般車両(非優先車両)の渋滞を残したままバスを優先させることについて、渋滞時あるいは混雑時に他の車両よりも速く、と言えることが望ましい。
定時性についての説明も、信頼性の説明にすり替えられているように読める。当然ながら利用者からの信頼性が重要であるが、BRTの運営費用を考えると定時性が確実に高いことも重要となる。そして輸送力については、前回の記事でも書いたが、連節バスは1人の運転士が運ぶ乗客数という意味で輸送力が高いだけである。システムとしての輸送力は、車線数(片側多車線のバス専用道路もありえる)、駅での同時発着台数、ドアの数、駅での停車時間、それらに基づいた運行頻度、車両の定員等によって決まるもので、空間と費用の制約がなければ理論的には輸送力は無限大である。
この話題に連動して、都市交通の適応範囲の説明も、あくまで、常識的な前提での各交通機関の表定速度と輸送能力を表しているにすぎない。例外的な事例はいくつか存在することも踏まえ、この図に縛られることなく、求められる輸送能力を費用条件下でどのように実現するかを検討することが望ましい。(図1)

(2)分類
同部会資料では、国内のBRT事例を4つに分類している。(表2)

このうち第4グループについては、速達性や定時性には触れず、かつシステムとしての輸送力にも触れていないのにBRTと称しているようにみえる。この第4グループの事例として横浜のベイサイドブルーが取り上げられている。そもそも横浜市はこのサービスをBRTと呼んでいないし、このサービスは、連節バス車両で運行しているが、オフピークのみ20~60分間隔で運行している。運転士一人あたり輸送力はあるものの、このような路線に対して輸送力を有していると評価しづらい。連節バス=BRTという先入観が残っているようにみえる。筆者は連節バスを日本で導入する意義は多面的に評価しているし、いくつもお手伝いもしてきたが、連節バスさえあればBRT、連節バスなら輸送力大という発想はない。第4グループは、BRTとは分けておくことが望ましい。
3.BRTの導入計画
部会資料では、BRT導入ガイドライン作成を目標としており、その基本的な計画の考え方が示されている。(図2)

バス等がなにもない地区であれば、全く問題ない。これまでの国内でのBRTに関連する事例でもそうだったが、全く新規にBRTを考えるというよりも、これまでの当該地域での問題を解決する策として、従来のバスシステムのBRTへの変更、あるいは従来の鉄道システムのBRTへの変更が課題であり、その地域の今に至るまでの経過と、今後のビジョンを明確化して計画上の課題を整理する必要がある。
筆者がいつも紹介しているブラジルのクリチバの統合的バスシステム、ボゴタのトランスミレニオにおいても、既存のバス路線の置換プロセスに工夫がある。
鉄道廃線後に線路敷を専用道路化してBRT導入という事例においても、同じ地域内の既存のバス路線との調整、事業の役割分担と連携で数多くの苦労があったと推察される。
既存のシステムのよいところを活かしつつ全体を組み替えるような計画姿勢が必要といえる。そのあたりが、プロセス提案に今後反映されることが期待される。
4.セクター別役割分担
部会資料の中で目をひくのが、公民分担のさまざまなケースが紹介されている表である。(表3)

施設やサービスについては、その企画準備段階と運営段階で分担が異なることがある他、運営においてもその中身をさらに細分化して役割分担を示す場合もある。さらにそもそものバス事業者が公営か民営かというのは、施設の所有者が民間企業なのか行政なのか、とは次元の異なる部分である。バス事業における公営と民営の違いは、他の業界での官民分担、たとえば公営駐車場と民営駐車場、市営墓地と民間墓地、市民病院と民間病院、等とは大きく異なると想定される。特にわが国での公営交通事業としてのバスサービスには長い歴史がある。そもそも公共交通の定義をどうするかが課題になっている現代において、その公共交通の中の民営と公営をどう整理するのか、丁寧な記述が期待される。
5.まとめ ─ 今求められていること
決して過疎地域や地方都市だけではなく、大都市圏内においても、幹線的な輸送というのが、地域の重要な骨格をなしていることは疑いの余地がない。
それを鉄道で担うのか、バスで担うのか、ここにも本来、上下関係はなく、鉄道がだめならバス、という場合だけではない。バスを活かしたほうが地域の空間構成や移動ニーズに合う場合もありえる。幹線道路沿いにさまざまな施設が集約している場合には、道路上のバス路線はきわめて有意義なはずである。
そしてバスを活かす場合に、バスにどのような性能規定が求められるのか、ここまで整理して描かれる幹線的なバスサービスのうちのある種の形態について、RapidなTransitであれば、BRTと呼ぶのがふさわしい。無理してBRTと呼ぶ必要はない。国際公共交通連合の定義に基づいて、欧州のBHLS(Bus with High Level of Service)(仏語ではBHNS)という名称を、用いることも十分にありえる。
このように考えると、最初からBRTを規定した計画論ではなく、幹線的な輸送をバスで担うべきとところで、担えていない場合に、どのようにゴールを設定して、それを実現し持続させるためには、誰がなにをどのような順序で進めていくべきなのかを整理すること、その中で、関連法制度の調整、内外の先行事例の参照方法を示していくこと、が求められているといえる。
