東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授 中村 文彦
自転車・バイク・自動車駐車場 パーキングプレス 2024 7月号
モビリティをデザインするアプローチ 第73回より
1.はじめに
今回は、公共交通の優先について、筆者が最近関心を持っている話題をいくつか紹介する。最近の話題である自動運転にせよ、ライドシェアにせよ、その他シェアリングサービスにせよ、AIオンデマンドサービスにせよ、道路上の公共交通の議論と無関係ではなく、道路交通における優先の考え方とは無関係ではない。今回は、そのようなつながりを踏まえた上で基本的な論点を、最近の具体的な話題と絡めて整理する。この一年間フランス訪問が多かったこともあり、写真はフランスの事例に偏っていることはご容赦願いたい。
2.そもそも公共交通とは?公共交通=運輸事業ではない。
国内海外を問わず、交通計画や交通政策、もしくは交通経済学の教科書に公共交通の定義がある。法律上の定義もある。国際公共交通連合(UITP:International Union of Public Transport:略称はフランス語語順)のウェブサイトでも紹介がある。ほぼすべてのバスやタクシーのサービスが民間事業者によって提供されている我が国では、それらの運輸事業と公共交通が同義とされている場面も多い。しかし、UITP等では、誰もが気軽に使えるという意味での公共性のある移動サービスが公共交通であるという明確な定義をしている。いわゆる貸切バスはバス事業であり運輸事業であるが公共交通ではない。自転車や電動キックボードのシェアリングは、商品をレンタルする事業ではあるが公共交通になる。タクシーやライドシェアも公共交通になる。
誰もが気軽にサービスを享受できることは共通要素だが、利用のための手続きの容易さ(乗り場に行けばすぐ乗れるのか、事前に会員登録が要るのか、事前に予約が要るのか等の違い)、自分で操作するかどうか、個人での移動か、まとまった人数での一緒の移動か、不特定多数と乗り合うか、といった違いがある点、その上で、さらに政策上の優先順位の違いがある点に留意が必要となる。
3.例1:パリ市内のバスレーン:優先の哲学
パリ市内には数多くのバスレーンが設置されている。統計データを確認していないが、観察している限りの特徴点、日本との違いは、以下の通りである。
①365日24時間の運用になっている。
②タクシー及び緊急車は通行できるが、ライドシェアは通行できない。
③自転車レーンが別途設定されていない区間では自転車も走行できる。
④縁石で他車線と区分される場合が少なくない(国際的には物理的区分のあるものはバスウェイあるいはバス専用道路と別定義する場合も多い)。
いずれの点も政策との関連で明確である。基本的に自動車を優先しない大方針があり、その上でわかりやすく運用する点で①④は必須といえる。多くのバス路線で24時間運行をしている点ともつながる。次に、タクシーとライドシェアの位置づけを明確に区分し、タクシーの役割を明示している点から②も明解である。そして、全市的に自転車利用を強く推奨する観点から、限られた道路空間の運用工夫という点で③も明解である。なぜ優先するのか、なにを優先するのか、道路交通流の適正化という観点よりも政策的な観点が卓越した考え方で整理されている。交通工学での実践的な理論と相容れない面があるかもしれないが、大都市や中核都市クラスの都心部では、このように政策的な視点からの優先の考え方の再整理が重要といえる。

4.例2:ナンシー市内のバスレーン:鶏と卵
フランスで公共交通の話題となると、パリ、ストラスブール、グルノーブル、ナント、メッス、白線追尾の自動運転だとルーアンが知られているが、筆者は、ナンシーにも着目している。都市交通戦略で設定されている2つの幹線路線のうちの1つに、当時ゴムタイヤトラムと呼ばれた、ボンバルディア社のTVRというシステムを導入し、従前のトロリーバスを代替したが、今回、TVRの運行を中止して、新たな電動バスシステムの導入に切り替え、2025年初頭には運行開始するべく、視察時点では【写真2】のように工事中であった。
もうひとつの幹線路線では、路側バスレーン、中央走行バスレーン、バス感知優先信号制御、突き出し型バス停等さまざまな施策でバスの走行を優先している。この路線の10年間の経緯を踏まえると、以下のように整理できる。まず、バスを優先させる施策群によりバス以外の車両の走行空間が減少し、そこでの混雑はひどくなる。そして、混雑がひどくなった結果、乗用車は、時刻の変更、経路の変更、バスへの転換等が進み、バス利用が増えるとともに、混雑は当初より緩和する。これは、鶏と卵の論理に似ている。道路空間を再配分しバスを優先させるときに、自動車がそれによって減少することを前提とし、そのためには、まずバス優先から始めるというのは、欧州等の多くの都市で当たり前のように受け止められていると思う。


5.例3:リヨン市内のトランジットモール:沿道と歩行者と
米国の交通計画の教科書では、中心地区の商業機能を中心とした歩行者空間をモールと呼び、その中で、歩行者以外に、バスあるいは路面電車等の走行を認めているものをトランジットモールと呼んで区別している。トランジットモールは公共交通優先のための施策として位置づけている教科書が多い。トランジットモールでの公共交通車両の役割としては、①モール内短距離移動支援、②郊外からモールへの直接アクセス、③モール内のシンボル性、等をあげることができる。歩行者専用のモールに公共交通を加える、という発想だとこうなるが、自動車全般が走行している道路空間から、歩行者と公共交通以外を締め出す、と考えるとよりわかりやすい。魅力的なコンテンツの多い商店街で、道路の両側の間をより横断しやすくしつつ(どこでも横断できるという意味で乱横断の実現と言える)、先に述べたアクセス支援や短距離移動支援を実現するために、公共交通以外を締め出すと考えるとクリアになる。公共交通を優先しているという意味での理解もわかりやすくなる。

6.おわりに
以上、本稿では、道路交通でのバス等公共交通の優先において、①そもそもその哲学を再確認すること、②まず優先させそれから自動車交通量の削減を狙うこと、③中心市街地では公共交通以外の自動車を排除し歩行者の乱横断実現による街並みの活性化を狙うこと、といった考え方を確認した。現代の日本で、公共車両優先システム (Public Transportation Priority System: PTPS)の高度化の検討がなされているが、本稿のような視点での議論が、そこに組み込まれていくことを期待している。
