背景
ロンドンでは1968年に最初のバスレーンが設置されて以降、順次その延長を拡大し世界最大規模のバスレーンネットワークを有するに至っています。一方で近年は配送やライドシェアの増加による渋滞の悪化が指摘されており、継続的なバスレーン整備の取り組みにもかかわらず、バスの平均走行速度が低下していました。そしてこれは、バス利用者の減少に影響していると考えられていました。
2016年、かつて国政の運輸大臣でもあったサディク・カーン氏(父親はバスの運転士)がロンドンの新市長に当選すると、ロンドンの都市交通政策の方針を定めた、Mayor’s Transport Strategy(MTS)を策定し、2018年にこれを公表しました。MTSは都市交通や道路空間全体を対象としていますが、バスについても言及されており、バスレーンの整備を推進することで信頼性の高いバスネットワークの拡充や、環境へ優しい交通体系のサポート、都市の開発と成長の後押しすることが方針として示されました。これに従い、バス分野にかかる取り組みはBus Action Planと呼ばれる関連計画としてまとめられ、バスの旅行時間を2015年に対して10%短縮することが目標に掲げられました。
バスレーンの拡充は計画の主体であるTransport for London(TfL)が独自に進められるものではなく、インフラの整備を担当する各自治区(Borough)と協働してすすめる必要があります。そこで効果的でより洗練されたバスレーンの仕様や、関係者が協働してより良い計画にまとめていくアプローチなどを示すBus Priority Design Guidance 2025を策定、公表しました。

実施内容
Bus Priority Guidance 2025には主に次のことが書かれています。
一つ目はバスレーンを新たに導入する際の基本的な考え方です。ここにはバスレーンで優先的に解決すべき課題の共有や、地域の性質を踏まえながら、関係者で合意できる計画をつくるアプローチが示されています。
二つ目は、バスレーンの設計のためツールキットです。バスレーンやバスゲートなどの基本的なインフラの仕様、バス停などの関連施設の仕様、交差点や荷さばきスペースなど干渉する動線・物件がある場合の処理、優先レーンのルーティングや信号制御、進入可能車両の設定など交通規制の最適化といった、バスレーンにかかる様々な面から具体的な指針が示されています。
三つ目は、関係者と合同で設計を評価する手法および評価の視点です。
ポイント
- Bus Priority Design Guidance 2025はこれまでのロンドンにおけるバスレーンにかかるベストプラクティスに基づいてまとめられています。すなわちロンドンにおける長年のバスレーン設置の取り組みの賜物といえるでしょう。バスレーンの計画からオペレーションに至るまでの幅広いフェーズをカバーしており、単なるインフラの設計にとどまらない、バスレーンの導入プロジェクト全体をどうデザインするかといった視点からまとめられています。タイトルにある「デザイン」という言葉がものの形状のみに着目した狭義の「デザイン」ではなく、プロジェクト全体を見渡し、どのようなアウトカムを得るかに着目した広義の「デザイン」を意味していることが強く感じられます。
- また、ベストプラクティスがベースになっていることから、多くの指針にはロンドン市内での参照すべき具体的な事例が示されており、身近な実際の整備例を参照しながら検討できるようになっています。実務担当者にとって有用なガイダンスとすることが意図されています。
- TfLは2022年に策定したBus Action Planに基づき、2025年までに25kmの新たなバスレーンを整備する25x25 bus priority programmeに取り組んでいます。4年間で12か所の整備を進める取り組みとなっており、 Bus Priority Design Guidance 2025はこれらを並行して円滑に進める手助けになっているといえるでしょう。
- TfLはバスに関してBus Priority Design Guidance 2025のほかにも様々なガイダンス類を策定し、公表しています。たとえば、バスネットワークやサービスの在り方に関するガイダンスである、Bus Service Guidanceや、バリアフリー設計に関するAccessible Bus Stop Design Guidanceをはじめとした様々なガイダンスが公表されています。これらのガイダンスにより、バスに関する政策が市民の手元にどのような形で届くかが明文化されています。TfLはこれらのガイダンス類をはじめ多くのドキュメントを、実務者向けのものであっても原則として一般に公表しています。関係者間で方向性を共有することはさることながら、市民に対する透明性も確保し、各主体の理解を得ながら施策を進めていく姿勢が映し出されています。


【資料・参考情報】
①Transport for London, Bus action plan, 2022
②Transport for London, Bus Priority Design Guidance 2025, 2025
