背景
イギリスでは1980年代以降、地方のバス路線の民間開放を政策的に進めていましたが、ロンドンに限っては例外的に公営で都市交通を維持してきました。
その後ロンドンでは、1994年にフランチャイズ方式を導入し、運行業務を民間のバス事業者に委託する形式を取るようになりました。路線やサービスレベル、運賃は引き続き公共管理で、市民目線からは統一的な公的サービスとして運行されていながら、入札によって事業者間の健全な競争を取り入れています。このバス事業や地下鉄など都市内の公共交通事業を一元的に経営する組織としてTfL(Transport for London)を2000年に設立し、現在に至っています。
一方、ロンドン以外の地方都市では民間開放により一部の高需要路線へのサービスの集中と、定時性や乗務員の対応などの面の品質が低下するといった、民間開放の副作用ともいうべき状況が各地でも問題となってきました。このような実態を踏まえ、2017年にはロンドン以外でもフランチャイズ方式を可能とするバスサービス法が成立しロンドン以外でも再びバスを公営化するための法整備がなされました。その後2024年の政権交代で労働党政権となったことを契機に全国的にフランチャイズ方式の導入の機運が高まっています。

実施内容
ロンドンのフランチャイズ方式においては、TfLが競争入札を通じバス事業者に運行を委託しています。
入札は原則、路線ごとに行われ、7年間の契約を基本としています。入札には国外事業者も含め幅広く参入可能です。参入を希望する事業者は事前審査を受けることで、入札資格を得ることができ、各路線の入札に際しては、金額だけでなく、人員、施設、車両の保有やメンテナンス能力、安全衛生管理、財務状況なども評価され、運行事業者が選定される仕組みとなっています。加えて、契約においは品質基準を設定し、車両やドライバーの品質、遅延状況などをモニタリングし、その結果に応じて支払額の増減を行うインセンティブを設定しています。また、契約基準よりさらに上の条件を達すれば通常7年間の契約を2年間延長することが可能となります。

ポイント
- ロンドン以外の地方都市における民間のバス事業では利用状況がサービスレベルに直結するため、高収益路線にサービスが集中する状況や定時性等の品質低下の状況が各地で散見されましたが、ロンドンではフランチャイズ方式により、行政が経営リスクを取りながら、都市全体でサービスレベルの維持とバランスの確保が可能となりました。
- ロンドン以外の英国の諸都市では民間開放によりバス利用者が減少していましたが、ロンドンでは利用者数は増加傾向にありました。ロンドンでの成功は、地方都市でフランチャイズ方式を導入するためのバスサービス法制定につながり、2023年にマンチェスターでフランチャイズ方式が始まったのを皮切りに、現在では多くの都市でロンドンを参考にしたフランチャイズ方式の導入が検討されています。
- また、ロンドンではフランチャイズ方式で一体化されたバスネットワークと、地下鉄などその他の公共交通を経営するため、TfLという巨大な交通事業者が誕生しました。TfLの誕生により、バス車両の開発や、オイスターカードの導入など、交通NW形成・経営に留まらない大型プロジェクトやデータに基づく健全な経営を推進することが可能となりました。
- TfLが都市の公共交通全体を運営することで、都市の公共交通が民主的に改善されていくことも特徴です。例えば、郊外の環状路線(スーパーループ)の導入、運賃を一定に据え置く運賃政策などは、市長選の争点の一つにもなった政策です。後者は現市長のサディク・カーンによって掲げられた選挙公約で、当選した2016年から実施され、バスとトラムの運賃は2025年現在も変わっていません。選挙によって市民から公共交通のあり方が注目されることも、高度に発達したロンドンンの公共交通を支えていると言えるでしょう。

Public transport access level (PTAL) in London, autumn 2023.(出典②)
【資料・参考情報】
①London’s Bus Contracting and Tendering Process, Transport for London
②Travel in London 2024 Annual overview, Transport for London
