背景
エクイティ(Equity:公正性)に対する関心が高まる中で、USDOT(アメリカ交通省)は2022年に”Equity Action Plan(公正性の行動計画)”を策定しました。計画では、以下の4項目を主要な取り組みに位置付けています。
・移動時間や費用の格差低減によるアクセス拡大
・小規模事業者への契約分配
・住民意見の意思決定への反映
・人種・所得により不利益な扱いを受けてきた地域への投資の拡大
また、USDOTが同年に公表した”Strategic Plan FY2022-2026”においても、安全性や環境面の持続可能性と並んで、エクイティが主要な目標の1つとして位置付けられています。2025年1月に開催されたTRB Annual Meetingでは、エクイティに関するセッションが多数設けられており、米国を中心に交通計画におけるエクイティへの関心の高まりが感じられます。

実施内容
実務分野においては、実際にエクイティを高めるための取り組みが行われています。 米国の高速道路や公共交通機関の規格設定を担うAASHTO(American Association of State Highway and Transportation officials)は、2021年から、次世代の新しい交通のビジョンを描くためのムーンショットプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトでは、「コミュニティ中心の交通」というビジョンが描かれています。
このムーンショットプロジェクトの1つにニュージャージー州交通局(NJDOT)が取り組むAccess to Opportunity – ALICEというプロジェクトがあります。ALICEとは「Asset Limited, Income Constrained, Employed」の略称です。職、学校、保育、ヘルスケア、店、社会的サービスへの到達に加え、友達、家族、宗教的なコミュニティへのアクセスを求めている人を指します。
交通関連プロジェクトを立案する際に、ALICEのことを改めて考え直すことが提案されており、計画検討、計画の実施、評価の段階のそれぞれにおいてALICEを考慮することが提案されています。



ポイント
- 米国の交通関連プロジェクトでは、移動における費用や時間といった移動格差(モビリティディバイド)を低減していくことが、既にビジョンとして打ち出していることが特筆されます。
- 例えば、2050年までにマイカーによる移動時間と公共交通による移動時間を同程度とする目標や所得に占める移動費用の割合について、年収による格差を2050年までに無くすなどの具体的な政策目標が掲げられてきた点も特徴です。
- また、米国では長年、人種・属性の違いによって享受できる交通サービスが異なるといった問題も生じており、こうした問題を改善することも、交通施策に取り組む際の目的の1つに位置付けられています。
- 都市圏レベルでも、シアトル、アトランタなどでは、公正性を重要視した都市交通のビジョンの策定、公共交通の路線再編など、都市交通のリデザインが始まっています。

【資料・参考情報】
①United States Department of Transportation: Strategic Plan FY2022-2026(2022 USDOT)
②COLLECTIVE AND INDIVIDUAL ACTIONS TO ENVISION AND REALIZE THE NEXT ERA OF AMERICA’S TRANSPORTATION INFRASTRUCTURE(2025.1.7 AASHTO)
③AASHTO Moonshot Update (2025.1.7 NJDOT)
④Equity Action Plan(2022.1 USDOT)