背景
ドイツ・ハンブルク市の都市交通は、鉄道、地下鉄、路面電車、バス、フェリーといった異なった公共交通手段、異なる事業者の運行を一つのサービスとして一元化する交通連合(HVV)により、長年にわたって市民の足を支えてきました(世界で最初の交通連合がここハンブルグから生ました)。
近年、HVVが統括する公共交通手段に加え、民間企業が展開する電動キックボードやカーシェアリング、デマンド交通など移動サービスとの共存、データガバナンスによる都市経営戦略が求められています。こうした変化の中、行政は都市経営やデータガバナンスをデジタルで主導する体制を強化し、民間の新たな移動サービスを統合するご当地MaaS、「HVV switch」の開発を進めてきました。
実施内容
2016年に開発が始まったHVV Switchは、行政と交通事業者が連携し、4年の開発期間を経て2020年に本格的にサービスを開始しました。
このMaaSは、HVVが統括する公共交通手段に加え、オンデマンド交通(MOIA)、カーシェア(SIXT share、MILES、SHARE NOW)、電動キックボード(TIER、Voi)といった市内の移動サービスを、スマホ一つで、24時間検索・予約・決済することを可能とした次世代のサービスを提供しています。人口約190万人のハンブルク市において、2023年10月時点で累計110万ダウンロードを記録しており、2020年の本格運用からわずか数年で、市民の日常の足を支えるサービスへと成長しています。
2023年8月からはさらに、利用者の一日の全行程をビーコン技術等により自動的に記録し、移動履歴から地域の最も安価な運賃で自動精算される、 「Be in, Be out」型の新しい運賃決済システム、HVV Anyも導入されました。これにより、従来の様に利用ごとにタップ、ゾーンを選ぶ、決済するといった手間がなくなり、移動のペインポイントを解消した、手ぶらでの移動が実現しており、使えば使うほど便利になる、市民と共に育つモビリティ・サービスとして、ハンブルグは挑戦を続けています。

ワンストップで利用できるご当地MaaSが人気(出典①)

究極のMaaSも社会実装(出典①)
ポイント
- HVV Switchのポイントは、アプリ開発ではなく、都市の移動を公的主体が主導しつつ、民間モビリティ事業者とのオープンな連携を通じて、機能と利便性を絶えずアップデート可能な制度設計を実現した点にあります。
- HVV Switchは導入以降、民間事業者とのパートナーを着実に増やしながら、オープンMaaSの思想により、国との連携も進めながら、アジャイルにサービスを改善し、日々成長、進化を続けています。
- ドイツ全土の月49ユーロで公共交通乗り放題(新幹線除く)のドイツチケットは、ご当地MaaSのHVV Switchからも購入可能で、開始前の50万DLから開始後には、100万DLと倍増しています。
- 電子チケットの仕様をドイツ全土で統一化し、現金からデジタルに移行できた効果が現れた好事例といえます。
- HVV Anyのような「Be in, Be out」型の自動記録によって、単なる乗車情報だけではなく、時間帯ごとの移動需要や交通モードの選好、決済傾向など、都市の営みそのものともいえるデータが地域に蓄積されることも、特筆すべき点です。
- これらのデータは、個人を特定せず、集約された形で分析され、モビリティ政策に還元されます。すなわち、 HVV Switchは、移動のインターフェースであると同時に、データが地域に循環する構造、都市運営の心臓部を担っているのです。

【資料・参考情報】
①HVVホームページ:HVV switch app
②Metropol-Modellregion Mobilität Hamburg(Hunburg Hochbahn、2023年11月)
③牧村和彦:ドイツの先進MaaS 移動ルートに応じて最安値運賃を自動精算(日経クロストレンド、2022年7月14日)