背景
デジタル技術や通信の飛躍的な進歩に伴い、移動のかたちも大きく変わりつつあります。その中で、オンデマンド交通は、路線バスの新たな進化形、新たな公共交通の選択肢の一つとして世界中で注目され、近年、都市部でも数多くの社会実装が始まっています。
ドイツ・ハンブルク市では、2016年、世界的自動車メーカーであるフォルクスワーゲン社が、都市型オンデマンド交通に本格的に参入するため、戦略子会社「MOIA(モイア)」を設立しました。そして2019年、ついにハンブルクのまちなかに、電動の6人乗りによる専用車両を開発し、オンデマンドシャトルが走り始め、現在は市内全域、24時間運行する新しい移動サービスとして、世界中で注目されています。

(遠目からでも一目でわかる洗練された外観となっている)
実施内容
オンデマンドシャトルMOIAは、2019年にハンブルク市で導入をスタートしました。導入当初から都市部での本格運用を想定しており、2023年12月時点で、市内の特別区エリアにおいて、約250~300台のMOIAシャトルが日常的に運行し、年間290万人以上の輸送実績を誇っています。MOIAの特徴はきめ細やかなサービス設計にあり、サービスエリアは320平方キロメートルにおよび、15,000カ所ものバーチャルバス停(停留所はリアル空間にはありません)が設置されています。特に中心市街地では、ドア・ツー・ドアに近い感覚で乗り降りができ、スマホ専用で使い勝手の良さが際立ちます。
呼び出しはMOIA専用アプリのほか、ハンブルク交通連盟(HVV)が開発したご当地MaaSアプリ「HVV Switch(130万DL)」からも可能で、複数のモビリティ手段を一つのアプリで完結できる利便性は、利用者に選ばれる要素です。いずれのアプリでも電話での配車依頼や現金決済をサポートしない代わりに、利用にかかるすべての手続きや情報提供の機能が備わっており、リアルとバーチャルがスマートに融合した都市交通の未来を感じさせるサービス設計になっています。


リアルタイムで更新されるアプリ(出展②)
ポイント
- MOIAが選ばれるポイントのひとつはその運賃設定にあります。路線バスよりは高めながら、乗り合いによってコストを抑えることで、タクシーよりはずっと手頃な、「いいとこ取り」のサービス設計になっており、既存のバスやタクシーと棲み分けを実現しています。
- MOIAの魅力はそのデザインと乗り心地にもあります。遠目からでも一目でわかる洗練された外観、車内は隣の乗客と視線が合わないよう配慮されたシート配置で、落ち着いた空間が広がっています。チャイルドシートも備えられ、家族連れへの配慮も忘れていません。MOIAは単なる移動手段ではなく、快適な移動体験という付加価値も提供しているのです。
- また、MOIAの成功を支えているのは、サービス設計や技術によるものだけではありません。ハンブルク市と一体となった都市戦略に基づき、バーチャルバス停を配置し、アプリ上で指定された乗降地点まで徒歩数分以内のアクセスの確保、公共交通・シェア自転車・カーシェアといった都市のモビリティを横断的にまとめる統合アプリの活用など、都市全体の交通エコシステムの一部として組み込まれていることが、大きな価値となっています。
【資料・参考情報】
①AWHT - Auf dem Weg zum Hamburg Takt
Bundesförderprogramm unterstützt Modellprojekt zur Stärkung des ÖPNV in Hamburg(Hunburg Hochbahn)
②MOIAホームページ https://www.moia.io/en
③牧村和彦:フォルクスワーゲンが狙う「乗り合い交通」市場 ドイツで急伸(日経クロストレンド)
④牧村和彦:ドイツの「MaaS先進都市」最新現地リポート 日本と何が違うのか(日経クロストレンド)
⑤牧村和彦:独ハンブルク市、「1万台の自動運転バス」計画の衝撃(日経新聞電子版)