背景
ドイツの首都ベルリンでは、今から10年ほど前、外資のモビリティサービスのプラットフォーマーでありライドシェアが本格参入する事に対し大きな危機感がありました。そこで、交通事業者であるベルリンのBVG(ベルリン交通公社)自らが、モビリティ・サービスのプラットフォームになる意思決定をし、市内の移動サービスをデジタルで統合するとともに、グリーンな交通手段による移動機会を創出するモビリティハブを合わせて展開する取り組みに着手しました。
実施内容
交通事業者(行政)がリトアニアの民間IT企業であるTrafi(トラフィ)と連携し、ご当地MaaSアプリである、Jelbi(イエルビ)を開発し、市内の郊外鉄道、地下鉄、路線バス、タクシー、カーシェア、シェアサイクル、モペット、電動キックボード、デマンド交通、ライドシェアなどをワンチームとして一つに統合しました。
行政は市内の日々の交通状況を把握することができ、デジタル時代のデータガバナンスの都市経営を推進するとともに、市民向けの新たな移動価値、マイカー以外の選択肢をひとつのサービスとして提供しています。合わせて、市内200箇所以上に誰もが24時間自由に利用できるモビリティハブを整備しています。MaaSアプリとモビリティハブは、同一ブランド名と同一のデザインで統合されており、モビリティハブの移動サービスの鍵がご当地MaaSアプリである点も特徴です。モビリティハブは規模に応じて大規模なハブを「Jelbi Station」、小規模なハブを「Jelbi Point」と呼び、まちなかにあったクルマのための路上駐車空間を小さいモビリティサービスの空間(モビリティハブ)に再編し、郊外の鉄道駅や郊外の集合住宅などにも不動産事業者などと調整しながら、モビリティハブの配置を拡大してきています。


ポイント
交通事業者自らがモビリティ分野のプラットフォームビジネスに参入しており、次々に生まれる新たな移動サービスに対して、市とも連携しデジタル時代のデータガバナンス、官民データ連携に取り組んでいることが特徴です。
市民むけの移動の伴走、移動を支援するご当地MaaSは80万DLを超え、欧州ベストアプリ賞を受賞するなど、日々アップデートを続けながら高い評価を得ています。
当初まちなかのモビリティハブを歩道に設置しようとしたところ、交通管理者などからの反対もあり、現在は車道の路上駐車スペースに置き換えられ、誰もが存在を確認できる街区のコーナー毎に配置されている点も見逃せません。その結果、1日当たりの来訪者増も生じ、まちとの接点、接点する需要が増えることで、移動総量全体を増やし、まちなかは小さく、ゆっくりした移動社会を目指しています。
可搬型用にイベント時などは、モビリティハブを暫定設置する運用も行うなど、移動の足不足への対応も柔軟です。移動のデジタル化を推進し、移動や滞留のきっかけを公共空間の新たな活用再編と連動させ、DXとGXを両輪で進めている注目の都市です。


【資料・参考情報】
①Introducing Jelbi
A One-Stop-Shop for Urban Mobility(2023.12, BVG)
②BERLIN MOBILITY ACT:AN INTRODUCTION
(2023.12, Senate Department for Urban Mobility, Transport, Climate Action and theEnvironment)
③牧村和彦(2024)
ドイツ「MaaS先進都市」現地リポート 日本との違いは、日経新聞電子
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC263KS0W3A221C2000000/
④勝俣 哲生(2019)
米グーグル、リフトも頼る リトアニア発・謎のMaaS企業に直撃、日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00234/00005/