背景
パリ市は、「歩行者、自転車、子供、お年寄り等、最も弱い立場にある人々にとって、首都の道路を安全なものにしたい」と考えています。そのため、かねてから歩行者空間の整備等を進め、公共空間の変革を行ってきました。
既にパリ市内では、約60%の道路には既に30km/hの速度制限が導入されており、シャンゼリゼ大通り、パリ東のヴァンセンヌの森、パリ西のブローニュの森等を走るいくつかの幹線道路はすでに50km/hへと制限されていました。また、一部のゾーンでは、「歩車共存」の速度制限が20km/hに制限されています。
しかし、「パリ市内を原則、速度制限30km/hへと引き下げる新たな規制によって、人身事故は25%、致命的な重大事故は40%低減されると見込んでおり、身体的、肉体的ストレスの原因となる騒音は半減します。」とパリ市は言います。
2020年のアンケート(回答者5,736人)では、 パリ市民の59%が制限速度を時速30キロに下げることに賛成し、うち39%がパリ市内全域を対象とすることに賛成、20%が一部幹線道路を除いて賛成していました。パリ市を囲むイル=ド=フランス地域圏の住民は36%が賛成で、うち16%がパリ市内全域を対象とすることに賛成、20%が一部幹線道路を除いて賛成していました。

実施内容
2021年8月より、パリ市内の車両走行の制限速度は原則30km/hとなりました。シャンゼリゼ通り等の幹線道路(制限速度50km/h)や環状道路(制限速度70km/h)を除いて、パリ市内の道路は歩行者や自転車等にとって安心なものになったのです。
パリ市は、「交通安全の向上」「騒音公害の削減」「気候変動への適応」をこの速度制限引き下げの目的として掲げています。
なお、環状道路の制限速度も50km/hへと引き下げたいと市は考えていますが、当面は70km/hのままです(その後、2024年10月から50km/hに引き下げられました)。


ポイント
パリ市で交通及び道路を担当する副市長デヴィッド・ベリヤー氏は、「道路を安全なものにするためには、都市空間における自動車の居場所を減らすことが必要で、それには速度を下げることから始まります。」と述べています。
パリ市によると、この速度制限の引き下げによって、「平均で20~50センチの幅の車道が開放されるため、歩道の拡幅、緑化、自転車専用レーンの設置等他の公共用途に振り向けることができ、その結果、ソフトモビリティを促進することができます。」とのことです。今後は、自転車の走行環境の改善を目的に、一方通行の道路の整備を進めていく意向のようです。
大型車の交通量が少なく、十分な幅と良好な視界の確保が可能等条件を満たす道路については、自転車専用レーンを両方向の片側通行から、一方向の両側通行に変更していくとしています。
【資料・参考情報】
②PARIS DATA
https://opendata.paris.fr/pages/home/
③JETRO,パリ市、車両走行の速度制限を時速30キロに引き下げ,2021年9月6日.
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/09/4137eb7ff6b7dcc8.html
④牧村和彦、パリ五輪目前の交通大改革 クルマの交通量45%減、何を変えたのか、日経クロストレンド、2023年11月29日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00582/00023/?i_cid=nbpnxr_index