背景
ロンドンでバスや地下鉄を運行するTfL(Transport for London; ロンドン交通局)はロンドンのバスについて、速達性よりも高頻度での運行を重視しており、停留所を通過する速達サービスの導入には慎重でしたが、一方で複数路線同士の運行区間の重複は減らしたいと考えていました。こうした中で、鉄道のない郊外において、鉄道駅や大病院に接続する新たなバス路線を開設することで、従来のバスよりも早く、またクルマよりも安く移動できるようにする取組が進められています。2023年からは、主にロンドン郊外を環状方向に結ぶ、高い速達性を目指したバス路線を”Superloop”と名付け、段階的に導入を進めています。
スーパーループの導入は、バス運転手の父親を持つ現ロンドン市長サディク・カーン氏の看板政策の1つでもありました。サディク・カーン氏は2024年の市長選挙で3選を果たしましたが、この際の公約にも、スーパーループの路線網を拡充する内容が盛り込まれました。

実施内容
Superloopは全10路線があり(2025年5月時点)、うち7路線はロンドン中心部を囲むように運行する郊外路線、3路線は中心部と郊外を結ぶ路線です。
10路線のうち4路線は、2023年以前から運行されていた路線の番号を変更したものです。2025年4月に、最新のSL4が開業しました。ラッシュ時のみ運行するSL6を除き、日中も約6~10分間隔の高頻度で、早朝5時から深夜24時まで運行されています。上半分を白く塗った専用のバスを使っているほか、バス停にもSuperloopの標識を設置するなど、ブランディングが図られています。一方で、速達性を目指した路線ながら、現状では2車線道路を走行する区間も多くなっています。
ヒースロー空港周辺を走るSL8やSL9は、空港で働く労働者が多く居住する地域を運行しているほか、周辺に鉄道路線がないため、多くの人に利用されているそうです。
さらに3路線を追加することが検討されており、2026年初めの導入を目指しています。


ポイント
- Superloopの実現には多くの困難が伴いましたが、郊外の交通網を改善し、すべての人がより自由に、かつ環境にやさしい形で移動できるようにするという市長の強い思いがあり、市長の強いリーダーシップ、自らが積極的に動くことで実現しました。
- 鉄道がない郊外同士を早く高頻度で結ぶ路線を運行することで、通勤などの日常の移動を支える路線として機能しています。郊外を結ぶだけではなく、放射方向の鉄道や地下鉄とも結節し、郊外の結節拠点の強化にもつながっています。
- ロンドン市内を走る路線バスと同様に2階建てのバスとしており、少ない運転士が多くの乗客が輸送できます。また、現金は利用できないため、乗降の時間も非常に短時間でスムーズです(ロンドンは10年前から路線バスの現金利用は不可)。
- また、クルマを利用できない人が多様な場所におでかけできるようにするだけでなく、クルマを持つ人も、クルマと公共交通をよりかしこく使い分けられるようにしています。
- 車両の塗装を変える、統一のロゴを制定し停留所や車両に表示する、といったブランディングの戦略により、特別なサービスであることを利用者にわかりやすく伝える工夫がされています。

【資料・参考情報】
①Impacts of 2020 Low Traffic Neighbourhoods in London on Road Traffic Injuries(Transport Findings, 2021.7.23)
