背景
フランス政府の交通を所管するエコロジー移行省によると、フランスの温室効果ガスの30%が輸送分野であり、その半分を自動車が占めています。エコロジー移行省インフラ・交通・移動産業総局副局長補佐のピエールさんは「フランスでは、2007年の環境グルネル会議以降、大統領や政治家、官僚の間で、自動車の排出量を減らすべくモビリティを支援していこうという『コンセンサス』が生まれました。そのような中、我々、エコロジー移行省は、1つの交通手段ではなく、デジタルのオンデマンドバス、ライドシェア(相乗り)、自転車を組み合わせた『サービスのブーケ』を提供しようとしています。」と言っています。
ライドシェア(相乗り)も、エコロジー移行省が支援している『サービスのブーケ』のうちの一つの『フルール(花)』なのです。ライドシェア(相乗り)政策を進めるという省の方針、『ライドシェアプラン』が2022年12月に大臣から発表されました。ライドシェア(相乗り)が普及すれば、約1億/日ある自家用車トリップのうち80%の乗車人員1人の分、相乗りによって排出ガスが減ることになり、フランス政府にとっては、自家用車での移動以外はすべて環境にやさしい公共交通サービスというわけです。
もともと、HOVレーン(相乗り専用レーン)、相乗り用の駐車場整備、ランプメタリング等、1980年代から90年代に米国にて広く普及してきた伝統的な交通対策をフランス流にアレンジして展開してきたことも背景にはあります。
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実施内容
エコロジー移行省は、AOM(Autorité Organisatrice de la Mobilité)のライドシェア(相乗り)へ交付金(年間200億円、5年間)を出しています。AOMが管轄する公共交通としてのライドシェア(相乗り)を、政府から交付金を通して支援することで推進しています。
AOMによるライドシェア(相乗り)は、数十kmを移動するような、通勤・通学目的の相乗り(covoiturage)を対象としています。利用者は通常、一切料金を支払いません(超長距離はこの限りではない)。私用等、利用者が距離に応じて料金を支払う民間のライドシェア(例:UberやFREENOWのようなVTC、タクシー、BlaBlaCar)とは、ターゲット層や料金が異なっています。
ライドシェア(相乗り)が解禁して2年半で600万回もの利用実績があり、2022年から2023年で50%以上、利用が増加しています。
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(ナントの例・出展②)
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ポイント
エコロジー移行省は「AOMからの1ユーロに対して国からの1ユーロ」という原則に基づいて、AOMがユーザーに支払う資金を補完しています。この支援のおかげで、例えば、パリ大都市圏内(イルドフランス)では、 Navigoという定期券保有者ならばライドシェア(相乗り)を1日2回無料で利用できます。
さらにライドシェアのドライバーも、ガソリン代にボーナスが付加されて、最大で月150ユーロの収入を得ることができます。
エコロジー移行省は、年間1億5千万ユーロ、5年分の予算を確保しており、ドライバーへ支給するボーナスキャンペーンをフランス各地で実施しています。相乗りの待ち合わせ場所を整備したり、相乗り優先レーンを導入する等、地域独自の取り組みも広がっています。ストラスブールの一般道路の相乗り優先レーンを監視するために、車両の同乗人数を把握する路側センサーと連携する最新のカメラが設置されたことは、大きな話題になっています。
政府のポータルtransport.data.gouv.frでは、全国での相乗りの移動実績等が詳細に公開されています。
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【資料・参考情報】
①エコロジー移行省
https://www.ecologie.gouv.fr/covoiturage-en-france-avantages-et-reglementation-en-vigueur
②イルドフランスモビリテ(イルドフランスのAOM)
https://doc.transport.data.gouv.fr/le-point-d-acces-national/cadre-juridique/references-relatives-aux-donnees-multimodales
③France Bleu Loire Océan
https://www.francebleu.fr/infos/transports/un-questionnaire-pour-les-usagers-de-la-voie-de-covoiturage-a-la-sortie-de-nantes-7912014
④ヴァンソン藤井由実, フランスのウォーカブルシティ 歩きたくなる都市のデザイン, 学芸出版社, 2023.
⑤牧村和彦,「ライドシェア解禁」はフランスから学べ 成長著しい背景には“ボーナス制度”があった!【連載】牧村和彦博士の移動×都市のDX最前線(17)
https://merkmal-biz.jp/post/50861