背景
2000年代初頭のニューヨークでは、財政の悪化を理由に路線バスの減便が進んでおり、減便による混雑の悪化や定時性の低下が、さらなる利用者減少を招くという負のスパイラルに陥っていました。
こうした問題を解決する大量輸送機関として、地下鉄を新しく整備するには費用と時間がかかるため、NYCDOTは地下鉄を補完する、速く信頼性の高い交通サービスをより安く迅速に整備するため、BRTの導入を決定しました。2008年以降、運行距離が長く混雑しやすい16路線について、通常のバスより速達性を高めたサービスであることを示すSBS(Select Bus Service、以下SBS)のブランドを冠してBRTが運行しています。


実施内容
SBSが運行される停留所や走行空間では、以下のような取組により、通常のバスに対する速達性と信頼性の向上を実現しています。
・停車時間削減のための取組として、停留所に設置された券売機で事前にチケットを購入し、乗車時の確認を省略する信用乗車方式を導入しています。また、停留所での乗降時間を短縮するため、側面に3つのドアがある連節バスを導入しています。
・速達性・定時性向上のための取組として、停留所の間隔を広くすることによる停車頻度の削減や、専用車線を走行することによる速達性の向上が図られています。また、交通信号との連携も行われており、特にバス専用車線を交差点の直前にのみ設けたキュージャンプレーンは特徴的な取組の1つです。
・利便性の向上のための取組として、ベンチ・上屋・照明のあるシェルター(待合空間)をバス停に設置しているほか、運行情報がリアルタイムに提供されています。
・バス運行の信頼性、運転士の運転負担を軽減するため、路線バスの前方にはバスカメラが設置され、違反者に対する啓発を行っています。
2008~14年に導入された6路線では、SBSの導入後、バスの所要時間は導入前から20%前後減少した一方、初年度の利用者が10%増加する、といった効果が表れています。

車群の先頭にバスが運行できるよう工夫


ポイント
- バスサービスのブランディングだけでなく、バス専用車線、停留所のバスベイ(バスの停車空間)、券売機、待合空間の整備、優先信号の導入といった、バスの利便性・速達性・定時性を向上させる取組がセットで行われていることが特徴です。路線ごとに700万~2700万ドルという多額の資金が投入されていますが、これにより速達性と信頼性の高い交通サービスの供給に成功し、短期間での利用者と収益の増加につなげています。
- またニューヨークでは、市中心部に出入りする自動車を対象としたcongestion pricing(渋滞課金)が2025年1月から導入されていますが、市はこの課金制度で得た収入を、公共交通機関への投資に充当しています。
- SBSを導入する路線の選定においては、当初の導入目的に沿い、サービスが行き届いていない地域や地下鉄の混雑に直面している地域などが選定されています。また、導入過程では市全域でワークショップを開催し、市民の意見をもとに導入計画が策定されました。