背景
公共交通や新たなモビリティサービスに関するデータを民間企業が保有するようになったため、世界各国の行政では、施策の検討や検証に必要な情報やデータが不十分になったという不満が高まっています。特にヨーロッパでは、交通や日常生活に関する多くのデータが、 GAFA等に代表される大手IT企業に独占されているのではないかとの強い懸念がありました。
そこでEU(欧州委員会)では、2017年5月31日付のマルチモーダル旅行情報サービスの利用可能性に関する規則によって(Le règlement (UE) n° 2017/1926) 、モビリティデータを参照する国家アクセスポイント(NAP)を作成することを義務付けました。
このEU規則に従ってフランス政府・モビリティ移行省は、ポータルサイト「transport.data.gouv.fr」をマルチモーダル情報データのNAPに指定したのです(décret 2020-183 ) 。さらに、2019年に新たに施行されたLOM法 (Loi d‘orientation des mobilités)の第25条および第27条では、AOM※、交通事業者、交通プロバイダー、インフラ管理者がポータルを通じて、旅客情報に必要なサービスやネットワークからのデータを利用できるように義務付けしました。
モビリティ移行省のオープンデータ化には、おおきく3つの目的があります。
1.交通分野のイノベーション推進
IT・定量化により交通分野へイノベーションをもたらし、エコシステム・経済活性化につながる
2.ユーザーの利便性向上
ダイヤ・経路案内等の基本的なところから、リアルタイム情報、エコな交通手段の選択を提供する
3.インターコネクションの共通化
様々な交通事業者の情報接続の整合性を図り共通化する
※AOMとは、日本の市区町村に相当するコミューン(日本の市区町村よりも比較的規模が小さい)をはじめとして、州や県、複数コミューンの集まりである広域自治体連合といった地方公共団体が、都市交通を管轄するために、設置する行政組織のことです。
実施内容
ポータルサイト「transport.data.gouv.fr」では、鉄道・バス等公共交通のダイヤ(380のデータセット)に留まらず、 リアルタイム公共交通データ(143のデータセット)、バイクシェア・スクーターシェアデータ(48のデータセット)、カープーリング(相乗り)、充電ステーション等、様々な交通に関わるデータがカタログ形式で提供されています。さらに、単にデータを地図上で可視化するだけでなく、提供されているデータの質等を可視化することが可能なプラットフォームも用意されています。
オープンデータの整備状況は、2024年5月時点で、国内の72.3%の人口をカバーしています(公共交通のサービス圏域を考えると概ねカバーしています)。また、整備対象は、定期・不定期の公共交通から、カープーリング(相乗り)、ライドヘイリング(UBER等のライドシェア)、誰もが使える交通手段のサービス状況を提供しています(利用状況は提供していない)。EU 指令により、2017年に定時制サービスが義務付けられ、2024年にその他の手段の義務付けがアップデートされました。
なお、このポータルサイトで採用されているSIRE(静的データ用)やARA(動的データ用)といったデータ規格は、フランスの有識者審議会「オープンデータに関する審議会03」における規格委員会(経路選択や切符購入等のプロセスを統一・規格化)が制定したものとのことです。
ポイント
AOMや、交通事業者、交通プロバイダー・インフラ管理者は、 ポータルサイト「transport.data.gouv.fr」へデータを提供することが、LOM法により義務付けられていますが、デジタル人材が足りないAOMや事業者は困ってしまいます。
そのため、このポータルには、問い合わせページを設けており、データ規格に対応できないデータ提供者に対して、ポータルサイトでガイドブックによる支援、オンライン等によるサポートチームによる技術的支援等、無料サポートを政府が提供しています。
オープンデータ化の課題として、モビリティデータ活用プロジェクトマネージャーのボイスさんによると「リアルタームデータのアップデートが難しいことです。現行の規制があって、規制の枠組みの中で、ポータルサイトに情報を整備し、これらが緩和される中で、少しづづ増やしていき、データの提供内容を拡大してきました。ポータルサイト作成時のスタートアップでは、数名のスタッフから始まり、8年目の現在、9名のスタッフ、年間80万ユーロの予算で運営しています。」とのことです。
また、今後については「オープンデータを巡るレギュレーションや、ユーザーのニーズも変わるので、ポータルサイトのゴールは設けていません。ユーザーの利便性を向上させるために、更新を続けていきたい」と言っています。
【資料・参考情報】
①transport.data.gouv.fr
https://transport.data.gouv.fr/